*全速力
細かい作戦を打ち合わせし終えたベリルたちは遂行の日時を二日後の深夜1時とした。公会堂のある町は数年前に住民が他の街に移転し誰もいない。派手にやれるというものだ。
「今回は殲滅戦と思ってくれていい」
「!」
それに一同はざわつく。
「無理に相手の急所を外す必要は無いという事だ。何か不満な点があればいつでも連絡してくれ」
言って基地をあとにした。アタックポイントはここから数百キロ離れた町だ。今日中に移動を終え数キロ離れた地点で待機する。
移動中もライカは色んなデータを1人ぶつぶつ言いながら見つめていた。これが彼の覚え方なのだろう。
正直、ダグラスが驚くほどライカの上達振りは凄かった。人とはこんなに変われるものなのか……と感嘆せずにはいられない。
ライカが見ているデータはベリルが彼のために作成したもので、彼が覚えやすいように書かれている。
彼がいつか変わるであろうとベリルはすでに彼用のテータを作成していたのだ。
むしろそっちの方が感心するよ……ダグラスはベリルを見てそう思った。
車の中で夜を明かす3人。
「!」
ふいにベリル側のドアのガラスにノック音。
覗くとそれは泉だった。ライカとダグラスを起こさないように静かに車から出る。
「どうした」
「いや、ちょっとな……」
言い出しにくそうにしている泉の言葉をベリルは星を見つめて待っていた。
「あのよ……あの2人。正直、お前の目から見てどうなんだ?」
「どういう意味だ」
「心強い仲間が増えるのは願ってもない事なんだが。中途半端な奴だと……さ」
泉は最後の言葉を濁した。それにベリルは小さく溜息を漏らす。
「素質がなければ育てたりはせん」
「それを聞いて安心した」
朝──起きて顔を洗うベリル。
ピックアップトラックの荷台には必要最低限の水と食料を積んできている。
「おはよ~」
眠い目をこすりながらダグラスが車から出てきた。
「ライカは?」
「ん、他の仲間たちと話し合いをしているよ」
ベリルはそう言って向かった方向を軽く示した。それにダグラスは怪訝な表情を浮かべる。
「話し合い?」
「奴はパーティ戦は初めてだからな、仲間たちと色々会話する事で意思の疎通が取りやすくなる。相手の呼吸が解るからね」
ベリルはライカがいるであろう方向に視線を向け目を細めた。
積極的に会話するようにライカに勧めたのだ。ベリルの弟子という事で仲間たちも興味津々で彼に話しかける。
独り立ちする時、顔を知られていれば今後にも役に立つ。
ライカは今までしてこなかった事を全速力で覚えようとしていた。
「私から離れるのも時間の問題だろう」
ぼそりとつぶやいた。