*敵
作戦会議を一端中断し休憩に入る。
「ベリル」
喉を潤しているベリルのもとにメロールが声をかけた。
「久しぶりね」
「元気なようだな」
「今回の作戦。どうなの?」
メロールは率直に訪ねた。ベリルはそれに表情を少し曇らせる。
「わからん……ロッシュは賢明な男だ。相手を刺激することは無いと思うのだが」
「まさか、彼を殺したり……してないわよね」
「殺せばどうなるか解らない奴ではなかろう」
「だといいのだけど」
「今の、どういう意味?」
メロールが離れたあとダグラスが近寄って問いかけた。
「ロッシュを殺すという事は我々傭兵全てを敵に回すという事だ」
「!?」
「戦闘で死ぬなら納得もする。だが、捕虜にした相手を殺すのは外道だ」
それを我々が許すと思うかね……? その目には怒りが見て取れた。それだけは決して許さない……ベリルがまれに見せる冷たい瞳が敵に向けられている。
「……」
相手は絶対に勝てないな……ダグはそう感じた。彼に睨まれて逃げ延びた相手はいない。
「トワイト大丈夫か?」
「ああ、なんとか」
ロッシュたちは秘宝の奪還に失敗しアンデルセンたちに捕まってしまった。
そのまま拘束し放置して移動するのかと思えば、彼らは一週間経っても移動する気配を見せない。
何故だ……? 何を待ってるんだ。こいつらの行動は予測しづらい。そのために捕まってしまったのだが……
「!」
すると奥から声が聞こえてきた。語気が荒い、何に怒ってるんだ?
「まだ経路の確保が出来んのか!?」
「すまん、逃走ルートがすでに遮断されているんだ。傭兵たちが監視している」
「! なんだと……?」
髭を蓄えた体格の良い40代半ばの男が怪訝な表情を浮かべた。黒髪は癖毛でブラウンの瞳と威厳のある顔立ちだ。
そんなに多くの傭兵を動かせる奴が存在するのか? その男、アンデルセンは腕を組んで思案した。
「! まさか奴か……いや、まさかな」
「どうした?」
「なんでもない。とにかく、どうにかしてここから脱出しないと」
顔を知られている彼らにとって捕虜を殺す理由は無い。すでにロッシュたちの存在はそこら辺のテーブルや椅子と同じだった。
なるほど。奴らの逃走経ルートを誰かが遮断しているのか……聞き耳を立てていたロッシュが納得した。しかし……
それは数百人単位で人を動かすという事だ。そんな規模を動かせる人間などいただろうか……ロッシュは一瞬、脳裏に過ぎった人物を振り払う。
まさか奴が来るハズがない……俺は奴と喧嘩別れしたんだからな。
それは数年前の事──ベリルの計画にロッシュは異議を唱えた。犠牲者が出るかもしれない計画だった。ロッシュはもっと確実な作戦をと彼に訴えたが、ベリルはこれが最良だと言った。
それ以来、彼はベリルとは組んでいない。
後に聞けばその計画で犠牲者は1人も出なかったらしい。だが、それは結果論だ。犠牲者が出るかもしれない作戦を黙って見過ごす事は出来なかった。
いや、解っているんだ……あれが本当に最良の作戦だった。俺は奴の才能に妬みを抱いている……年は取りたくないものだ。
こんな卑屈な人間ではなかったハズなんだがな。何もかもが妬みの対象なんだよ、お前は……とロッシュは深い溜息を漏らした。
捕まるってのは性に合わんな。考える時間がたっぷりある。とにかく、そんな俺の考えを悟っているあいつが俺を助けになんて来るハズはない。
しかし、助けようとしている人物は確実に存在する訳だ。その時までなんとか体力と気力を温存しておかなくては……最低限の食事しか与えられていないロッシュたちは半ば気力が途絶えそうだった。