*女性の依頼
「で、依頼というのは?」
3人はビーチから女性の家に移動した。差し出されたジュースにダグラスは嬉しそうにストローをくわえる。しかし……
「あっ……?」
ベリルはダグラスのグラスを奪い少し味わった。それに女性は小さく笑う。
「毒なんて入ってないわよ」
「毒!?」
ライカとダグラスはギョッとしてジュースを凝視した。
「そのようだ」
言ってグラスをダグラスに返した。
「助けて出して欲しい人がいるの」
女性は写真を手渡しながら自己紹介も兼ねて続ける。
「私はリアンナと言います。助け出して欲しいのは私の父。ロッシュ・バーゴン」
ベリルは写真の人物に眉をひそめた。
「ロッシュ……?」
「知ってるの?」
ダグの質問には答えずリアンナという女性に視線を移し問いかけた。
「何かあったのか?」
「実は……ある要人のご子息が誘拐されて、その救出を依頼されたのが父なの。でも相手は予想以上の武装集団で……」
「逆に捕まってしまった?」
「ええ、そう」
リアンナは頭を抱えて疲れた様子だ。
「どうしていいか解らなくて……あなたがここに来ていると父の仲間から聞いて、あなたを探していたの」
「彼の仲間には頼まなかったのかね?」
「頼もうとしたわ……でも、みんな腰が引けちゃって」
「だろうな。ロッシュが失敗するほどの相手だ、簡単に首は振れない」
「お願い、あなただけが頼りなの」
リアンナはすがるような目でベリルを見つめた。
「ねえ、ロッシュって誰なの?」
ダグラスは車に乗り込もうとするベリルに訪ねた。
「有名な傭兵だ。何度か一緒に仕事をした事がある」
ベリルは詳細なデータを後日、来るまでに集めておけとリアンナに言って家をあとにした。車に乗り込んだベリルたちは、しばらく走らせて馴染みのホテルに入る。
部屋に入るとダグラスがベッドに体を投げた。それにベリルは見向きもせず携帯に手をかける。かけた相手は……
「泉か、頼まれてくれないか」
「!」
仲間を集める気なんだ……ダグラスはすぐに気付いた。
息を潜めてその様子に聞き入っているダグラスとは違い、ライカは鼻歌交じりで冷蔵庫からジュースを出してがぶ飲みしている。
「……」
なんて緊張感の無い奴……少年は何も言えずにその姿を見つめた。
「ライカ」
「うわはいっ」
電話を終えたベリルがおもむろに彼に発する。
「北はどっちだ」
「えっ!? えと……あっち?」
答えたライカにナイフを投げつける。
「きゃあ!」
ライカは驚いて身を縮めた。
「方角を明日までに完全に把握しておけ。でなければ次の作戦には参加させん」
「ええええ!? 明日っ?」
ライカは愕然とした。この12年、方角を掴めなかったものを突然、明日までに把握しろだなんて……きっと俺を連れて行く気なんて無いんだ! ライカは卑屈になって別の部屋でいじけていた。
「いいの? あれ」
「いつまでも人に頼っていては覚えるものも覚えん。奴は自分が周りに甘えている事に気付いていない」
それから数時間後──ベリルはライカの部屋のドアを開いた。暗い部屋の中、ライカはそのまま寝てしまったようだ。
「ライカ、起きろ」
「んあ?」
寝ぼけ眼で見上げる。目を据わらせてベリルが見つめていた。
「うわっと」
驚いて起き上がる。
「南はどっちだ」
「はえっ!?」
応えるのを待つベリルに彼は恐る恐る口を開く。
「あっち……?」
「外にいる時は常に太陽の位置を確認しろ。建物に入る前にも確認し、自分の位置と照合させて記憶するんだ」
「はい……」
ベリルはさらに続けた。
「いいか、ハンターはいつも単独で行動すると思うな。一歩間違えば仲間を殺してしまう事を理解しろ」
「……っ!?」
言われてセシエルの事を思い出し背筋が凍る。
「セシエルの事はお前のせいじゃない」
その様子に彼の考えを悟ったベリルが発した。
「でも俺は……っ」
詰まらせるライカにベリルは溜息交じりに応える。
「自分で克服するしかない。私は何もしてやれん」
そう言って部屋を出た。
「オヤジ……」