*エピローグ
“ジリリリリリリリ……!”
朝──目覚ましがけたたましく鳴り響く。
ここはオーストラリア連邦ノーザンテリトリー準州の首府ダーウィン。ベリルの自宅だ。
「ん~もうちょっと……」
「ダグラス!」
「うわっはい!」
「早く起きろ」
階下から2階に声を張り上げて小さく溜息を漏らした。
「なんで俺はつれてってくれないんだよ!」
ダイニングでライカが声を張り上げる。
ブラウンの髪は肩まであり青い瞳に彫りの深い顔立ち。ベリルのもう1人の弟子だがベリル自身はそれを認めていない。
ライカはダグラスを連れて帰ってきたベリルに、ばつの悪そうな顔をした。
それも当然だろう。留守番に腹を立ててあんな手紙をよこしたのだから……朝食の準備をしているベリルにブー垂れるライカをダグラスは呆れて見つめる。
「……」
あんな厳つい顔してるのに子どもみたい。もう27歳なのに……と小さく溜息を吐いて顔を荒いに洗面所に向かう。
「お前は別の仕事が入っているだろう」
「あんたが入れたんだろうが!」
「ハンターとして一人前になりたいのだろう?」
「うっ……」
仕返ししただけのくせに! とも言えずテーブルに腰掛けて食パンにかぶりついた。
「ふあぁ~」
「早く食べろ」
「眠い……」
顔を洗ってきたダグラスはまだ眠気にあくびが止まらない。なかなか起きないダグラスのおかげで出発が少し遅れ気味なのだ。
ひとまず準備と確認を済ませピックアップトラックに乗り込むベリルとダグラス。
空港に走らせている間もダグラスはあくびと眠気に戦っていた。
「いい加減、目覚ましが鳴る前に起きんか」
「だってぇ~眠いよ」
「その閉じた目をこじ開けてチェックしろ」
車を走らせながらベリルは荷物を投げ渡す。
「ふぁ~い……」
「……」
寝ぼけ眼のダグラスにベリルはピキッと目を据わらせた。
「ぎゃっ!」
「チェックしながら歩いて来い」
ベリルはダグラスを車から蹴り出すと言い捨てて走り去る。
「ちよっ!? 待ってよ……! ウソ……」
十数メートルほど追いかけたが、車は止まる事無く走っていった。
「……マジで?」
ダグラスは肩を落とし、まだ暗い舗装されていない道路をトボトボと歩き始めた。
1時間ほど歩いた処で対向車線からヘッドライトの灯り。
「!?」
助かった! なんとか頼んで乗せてもらおう。
「おーい! 止まってく……れ……」
見覚えのある車体……止まった車の窓が開く。
「チェックし終えたか」
薄笑いでベリルが問いかけた。
「ベリル!」
少年は急いで車に乗り込んだ。
仕事をしている時、ベリルは凄く厳しい。
命がかかっているから厳しくなるのは当然だ。でも、それ以外はとても優しかった。柔らかい笑顔で沢山の事を教えてくれる。
女性にモテるのがよく解る。
まあ……イズミのような人たちにも人気あるのも解るよ。彼のような強烈なアプローチをしてくる人は稀だけどね。
僕は彼から色々と学び、その技術を盗んで立派な傭兵になりたい。
3人の父の名を汚さぬような、そんな傭兵にきっと……