*ライカ再び
それからおよそ一週間後のアメリカ合衆国、ネブラスカ州。アメリカ中部の州で州都はリンカーン。北にはサウスダコタ州、東はアイオワ州とミズーリ州、西はワイオミング州とコロラド州、南はカンザス州に接している。
西部にはスコッツブラフ、チムニー・ロックなどの巨大岩がある。
「見つけたぞ!」
ベリルがオレンジレッドのピックアップトラックから降りてすぐ、ライカが声を張り上げた。
指を差されたベリルは眉を寄せ、あからさまに嫌な顔をした。
ハンターは決闘する者でもチャレンジャーでもない、捕まえる事が仕事だ。なのにどうしてこいつは馬鹿正直に正面から堂々と現れてくるのか。
砂漠色のミリタリー服に身を包み、彫りの深い顔立ちは厳つく身長も高く、体格はベリルの二回りはありそうだ。
万が一にも背後から忍び寄る事が出来たなら、もしかしてもしかするとベリルのどこかを掴めるかもしれない。
これだけの体格差ならよしんば掴めたとして、あり得ないことじゃないがそのまま捕らえられるかもしれない。
ベリルは百七十四センチと細身で小柄だ。大抵の人間はその外見で彼を過小評価する。
ハンターならばある程度は相手の力量を読む能力にも長けていなければならないのだが、どうやら熟練者ではないらしいとベリルは推測した。
「誰に頼まれた」
「言える訳ねえだろ」
ライカは逃がさないと強調するように体勢を低くして視線を外さない。その様子にベリルは仕方がないというように小さく溜息を吐いて目を閉じた。
「──うっ!?」
そして次にベリルが目を開いた瞬間、ライカは動けなくなる。先ほどまでとは違う強烈な存在感に足が震える。
ただそこに立っているだけだというのに、まるで射すくめられたように体が強ばり喉が詰まる。まるで喉が渇いたように張り付いて今にも咳き込みそうだ。
俺はいけるんだ。有名なハンターだったオヤジにずっとついてたんだぞ、俺にやれない訳がない。ライカは心の中で必死に自分を励ました。
そんなライカの恐怖心を悟ったのか、ふいにベリルの鋭さが消える。
「気が失せた」
「えっ!? ちょっとまっ──!?」
今までの緊張から突然に解放されたせいで素早く車に乗り込むベリルに対応出来ず膝からガクリと崩れ落ちる。
「おい! 待てって! 待てよ!」
なんとか追いかけようと必死に立ち上がるがすぐに膝が折れる。
「え、うそ」
目の前で二度もの逃走に、伸ばした手は遠ざかる車に虚しく向けられる。ライカは信じられない気持ちを抱えて依頼主の男に電話をかける。
<また逃げられたのですか>
電話の向こうの依頼主はやや呆れたような口調だ。
「隙を突かれたんだ」
<仕方がありませんね。奴の居場所が解ったらまた連絡します>
「頼むな」
通話を切ってハンドルを握り、砂色の四輪駆動車はゆっくりと発進した。とりあえずベリルの車が走り去った方向に走らせる。
「マジかよ」
二度も間抜けな逃げられ方をしたライカは苛立った。
なんで正々堂々と立ち向かってこないんだ、俺がそんなに怖いのか。それとも、何かの悪事をはたらくのに時間がないのか。
「そんなことさせてたまるか」
舌打ちしつつ悔しげに発する。ライカは相手の感情が読み取れずに若干、戸惑っていた。上品ではあるがのらりくらりとした物言いで、こちらが苛ついている間に逃げられてしまう。
「次こそは絶対に捕まえてやる」
これ以上悪いことをさせてなるものか。