*留守番
朝──どこかに出かけようとしたベリルの後ろからついてくる少年を制止する。
「お前はここにいろ」
「どうして?」
「今から行く場所にお前は連れていけない」
「なんでだよ」
少年は頬を膨らませて抗議した。
「私のためではない。お前のために言っているのだ」
「どこに行くのかだけ教えてよ」
「私の住処」
「なんでそれが僕のためなのさ」
「捕まった時、私の住処を聞かれたらどう答える」
これから行く場所はあまり多くの人間に知られる事は避けたい場所なのだよ。
「えっ……!?」
「これでも敵は多い方でね。知っていて知らないフリをするのと本当に知らないのとでは雲泥の差がある」
お前に心を隠す術があるのなら連れていってやらんでもないがね。薄笑いを浮かべてベリルは言い放った。
「……ベリルのケチ」
ホテルでじっと待っている少年は少し苛立っていた。住処に連れていってくれないという事は、まだ弟子だと認めていないという事だ。
彼に出会ってうちに訪ねてくる人たちが彼をひとしきり褒めていた事に多少の疑問を正直、抱いていた。
しかし、顔合わせの席で彼がリーダーに選ばれたとき羨望の眼差しで彼を見つめるいくつもの目にウソではなかったのだと再認識した。
少年の父親は傭兵家業を引退して5年になる。
それまでの財と顔の広さで現在も裏の世界では名の知れた人物だ。傭兵時代の話を聞き少年は父の偉大さに誇りすら覚えた。
いつか父のような偉大な傭兵になる……それが少年の夢である。そのための第一歩がベリルの弟子になる事だ。
『素晴らしき傭兵』
そう呼ばれる彼にどれほど憧れただろう。
なのに……こんな処で待ちぼうけなんて! 少年はふてくされてベッドに寝そべった。