*仲間
朝、ベリルはダグラスをモーテルに置いていこうとしたが……
「査察?」
「ああ、定例のね」
犯罪行為は行われていないかと警察が行うパトロールだ。
「悪いが今日1日は来ない方がいい」
肩をすくめてカウンターの男が言った。
「今日だったか」
ベリルは小さく溜息を漏らし少年に目線を移す。
「どこに行くんですか?」
「依頼の詳細を聞きに行く」
本当は少年を連れて行く事はしたくない。紹介すれば大々的にベリルの弟子として公認されてしまう。
今までもベリルに教えを請おうとした人間は何人かいたが、彼はそれを拒否した。彼は己の存在を良しとはしていない。そんな自分が人に何かを教えるなど……
ライカは彼にとって予定外の人間なのだ。セシエルの拾い子でなければ放り出したい。
郊外──少し大きめの施設が視界に入ってくる。車を降りると心地よい緊張感が肌を刺激した。
「ハァイ、ベリル」
声をかけられて振り返るとキャシーが立っていた。
「あら、連れてきたの?」
「仕方なくな」
案内されて一室に入る。
「!」
そこには沢山の人間がいて、ひと癖もふた癖もありそうな風貌が並んでいた。皆ベリルに手を挙げて挨拶をかわす。それにベリルも手を挙げて応えた。
集まった処で全員が椅子に座ると依頼をしてきたであろう男が前に立ち発する。
「今回の依頼は実に大変だ。この施設の破壊を頼みたい」
大きなディスプレイに映し出された建物に口笛が鳴らされる。
「ここは知ってる。かなりデカイ組織の武器工場だ」
「ここは誰も手を出さなかったぞ」
「おいおい、マジかよ」
「見れば相当な規模だと解る。以前から私も目を付けていた施設だが、さすがにデカすぎて二の足を踏んでいた場所だ」
みんなが戦々恐々とする中、キョトンとする少年にベリルは説明した。
「そうだ。そうやって臆していた間に、ここまで大きく膨れあがった。今やらなければこれ以上、彼らの犠牲者を増やしていいのか?」
言われて全員何も言えなかった。
確かに、考えあぐねて奴らに時間を与えてしまったのは事実だ。
「それで今回、我々がその資金を全面的に援助しようとなった訳である」
臆した者は素直にキャンセルしてくれて構わない。そう言われれば受ける他はない。
誰も抜ける者がいないと確認した依頼者は今までよりも声高に口を開いた。
「この作戦のリーダーを彼に頼みたいと思う」
示された人物は……
「ベリルか」
「彼ならいけるかも」
「奴が参加するのか」
口々に発せられる声にベリルは目を細める。そして前に出るようにうながされた。
「私が指名されたが。異論のある者は?」
ベリルは重い腰を上げて前に進み出て発する。
「いる訳ねーだろ」
「頼りにしてるぜ!」
聞いて小さくうなずく。
「何人だ」
「45人」
依頼主に視線を合わせ訊ねるとリストを手渡された。
「あと5人いいかね?」
「希望者でも?」
「腕のいい奴がいる」
「いいだろう。連れてきてくれ」
依頼主は応えたあと傭兵たちに付け加える。
「成功すれば報酬を渡す。完全成功制だ」
「うは、実費かよ」
「成功すればいいのさ」
「軽い軽い」
依頼主の言葉に明るい会話が交わされる。
「トマックとメイヤー、それにモリスは施設の監視に付き合ってくれ。一週間後、作戦を練るため再び全員ここに集合だ」
ベリルは一同に向き直り指示を下した。
「おう!」
「了解」
確認して一斉にテントから出て行く。





