*予期せぬ訪問者
「どこに行くんですか?」
「モーテル」
それに少年は怪訝な表情を浮かべる。
「依頼の詳細をまだ聞いていない。今日はひとまず概要を聞き引き受けるかどうかを決めただけだ」
「依頼!?」
少年が嬉しそうに目を輝かせた。
「お前を弟子にした訳じゃない。連れていかんぞ」
「ダグラス」
「ん?」
少年はベリルをしっかりと見据える。
「“お前”じゃない。ダグラス」
ベリルは「知った事か」と小さく舌打ちした。
刹那──
「うっ!?」
後ろから猛スピードでせまってきた車がベリルのピックアップトラックの前で突然止まった。
「……」
何事かとベリルは眉間にしわを寄せる。
「!」
そして出てきた人物に目を据わらせた。
「よぅベリル」
「泉か。危ない事はするな」
ベリルはドアを開かずガラスをスライドさせた。
「……?」
少年は気安くベリルに話しかける男の声に興味を示し身を起こす。赤茶色の髪と瞳。見たところ東洋人ぽい。
でも……なんだか2人の間に緊張感が漂っているようにも感じられた。
「開けてくれないかな」
「イヤだ」
「もう服の中に手、入れないからさ」
「!?」
手……!? ダグラスはギョッとした。
「久しぶりに会えたんだから再会を喜び合おうよ」
男はニコニコとベリルに話しかける。
「喜び合えると思うか」
しかし彼の目は厳しかった。
「じゃあ俺だけでもいいや」
そう言って開かれた窓に手をかけて顔をベリルに近づける。
「……」
ベリルが眉をひそめて顔を遠ざけると、ドアの開閉スイッチに素早く手をかけた。
「!? しまっ……」
泉という男はドアの鍵を開けすかさずベリルの上に乗る。あまりのあざやかな行動にベリルも少年も唖然とした。
「やぁ」
「出ろ」
嫌悪感を全面に引き出したベリルの顔を満面の笑みで泉は見つめる。
しばらくの沈黙が車内を満たしたが、彼らの間ではすさまじい闘いが繰り広げられていた。
「……」
そんなピリピリした雰囲気を、少年は感じ取る。
一体この人は……?
「そういえばこの子は?」
「! やめ……っ」
問いかけにピクリと反応したベリルの隙を逃さず抱きしめた。
そして──
「!?」
うそ~……
少年は初めて男同士のキスを目撃する。
割と長い時間、数十秒ほどダグラスはそれを眺めた。
「やめんか!」
泉の唇から解放されたベリルは息を吐き出し乱暴に口を拭った。
「相変わらず気持ちいい唇してるね」
ベリルの言葉を完全に無視して男はやりたい放題だ。
「誰の子?」
「ハミルの子だ」
「!」
見つめられて少年はギクリとする。
「生憎25以上が俺の対象だ」
ガキには興味無い。とニヤリと笑う。
「私は40超えてるが」
「見た目は25だろ」
印象的な輝きを放つエメラルドの瞳とその整った顔立ちを目を細めて見つめる。
「弟子をとるのか?」
「そんな気は無い」
会話をかわしながらも抱きつかれまいとするベリルと抱きつこうとする泉が静かに闘っていた。