*少年
「弟子にしてください!」
その少年はベリルの前に立ち声を張り上げた。
肩までのシルヴァブロンドは柔らかく、赤茶色の瞳はその魅力を最大限に引き立たせていた。ブラウンのカーゴパンツに厚手の白いシャツは草色のベストと合わせた恰好だ。
「……」
まだ幼さの残る顔立ちに眉間にしわを寄せた。
「あっ!?」
真剣な面持ちの少年を一瞥しスタスタと歩き始める。少年は慌ててその後をついていった。
「ついてくるな」
「でっ、弟子にしてくだ……」
「私は弟子はとらない」
言い終わらないうちに少年の言葉を切る。
依頼を受けて南米に来たベリルが歩いていると後ろから呼び止められて振り向くと少年が立っていた。
何かを期待するような眼差しを向け発した言葉が……
「あなたがあの“悪魔のベリル”ですよね! お願いです僕を弟子にしてください」
と屈託のない顔で言われ唖然とした。
「いくつだ」
いつまでもついてくる少年にベリルは小さく溜息を吐き、ぶっきらぼうに問いかけた。
「15です!」
「若すぎる。あと10年したら来い」
「10年したら25じゃないですか!」
なんだかんだ理由付けて断ろうとしても無駄ですからね! と少年は勢いよくベリルに紙切れを渡した。
「……?」
怪訝な表情でベリルはその紙切れを受け取る。
『そいつ俺の知り合いの子供。てな訳でよろしく ライカ』
「……」
それにベリルは頭を抱えた。
留守番をさせた事に腹でも立てたのか? こんな嫌がらせじみた事をするとは……
「有名な傭兵の弟子になりたいって言ったら。あなたを紹介されました」
ベリルは深い溜息を吐き出す。
「何故、傭兵になりたい」
「格好いいから」
言われた言葉に呆れた。
「嘘をつくな。私に嘘は通用しない」
「!?」
少年は驚くと視線を泳がせて応える。
「……初めから、あなたに狙いを付けていました」
「どこで私の名を聞いた」
「父やその仲間から」
「名は?」
「ダグラス・リンデンローブ」
それにベリルは少し反応する。
「リンデンローブ……ハミルか」
「そうです。父の名です」
「奴とは10年ほど顔を合わせていない」
「みんな、あなたの事を必ず口にします」
「だから何だ。褒めても何も出んぞ」
しかめっ面を崩さないベリルに少年は立ち止まり、むくれて声を上げる。
「みんなあなたはとても気さくな人だと言ってたのに! そんな態度は酷すぎます」
そんな少年にベリルは溜息交じりに発した。
「それも時と場合による」
私は弟子は取らない。ベリルは再び言い放った。
ライカも弟子と言えば弟子かもしれないが、長く置いておく気は無いので今はまだ彼の中では弟子ではない。
「ハミルも何故止めなかった」
「あなたの処なら安心だからと」
「……」
聞いて手で顔を覆う。どいつもこいつも……
「私は子守じゃないぞ」
「あなただって、15でこの世界に入ったんでしょう?」
ベリルはそれに怪訝な表情を浮かべる。少年は勝ち誇ったような顔をした。
「あなたの事はちゃんと調べてあるんです」
「お前と一緒にするな」
言って再び歩き出す。