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天使の残像  作者: 河野 る宇
◆第四章~やればいいんだろう?
10/45

*役に立たない

「今度はなんだ」

「えと……」

 ライカは言い出しにくそうにしながらも渋々、語り始めた。

 ──ひと通りの説明にベリルは頭を抱え、溜息を吐きつつライカを見つめる。学ぶという事をしないのか、これでは前回とまるで変わっていない。

「それを信じた訳ではあるまいな」

「そ、そんなわけねぇだろ!」

 ライカは否定するが、その目は微妙に泳いでいる。

「で、でもよ。あんな女の人があんたを狙うってのは、組織とは関係ないんじゃないのか?」

「それは私に何かしらの非があるとでも言いたいのか」

「そ、そんなこと言ってねぇって!」

 どうなんだか……。ベリルは目を据わらせて男を見やった。

「私を狙う理由は様々だ。組織だけとは限らない」

「じゃあ彼女にもそれなりの理由があるってことか?」

「自分で調べたらどうだ」

 ライカを軽く睨みつけた。

 まずは自らの情報網と足を使う事が基本だというのに他人の、ましてや現状での獲物から何を訊こうとしている。

「それはそうだけど」

 困ったように声を小さくしたライカに、これでハンターだというのだから呆れたものだと眉を寄せる。

 そのとき、

「西から何か来る」

 大気から伝わる気配にベリルは表情を険しくした。しかし、ライカは怪訝な顔で空を仰ぐだけだ。

「西ってどっち」

 この言葉には、さすがのベリルもがくりと肩を落とした。こいつは本当にハンターなのか。

「北を指してみろ」

「えっ!?」

 突然の指示に狼狽うろたえながらも、とりあえず空と周囲をキョロキョロと見渡したあと、小首をかしげて照れ笑いを浮かべた。

「もう良い」

 諦めたように眉を寄せ、ピックアップトラックに向かう。

「待てよ!」

「お前と遊んでいる暇はない」

 時間があれば懇々と説教しているところだ。

「なんだよ」

 不満げなライカを意に介さず、ベリルは運転席のドアを開き、座席の下に置いてある予備の弾薬を取り出してポケットに収めていく。

 遠方から近づいてくる幾つもの影を視界に捉えたライカは目を丸くした。

「これって、俺の受けた依頼で?」

 また、俺のせいで──?

「だからどうした」

 お前が受けようが受けまいが来る者は来る。

「……俺」

 目を伏せ、握った拳を振るわせているライカにベリルは溜息を漏らした。この状態では役に立たない。

「中へ」

 ピックアップトラックをあごで示す。

「お、おう」

 ライカが後部座席に体を滑り込ませた。ベリルは持っていたハンドガンを仕舞い、それらを見つめる。

 草色のジープ二台と黒いリムジン一台がベリルの十メートルほど手前で止まる。ほどなくして武器を手にした男たちが車から飛び出し、ベリルに銃口を向けた。

 そうして、黒いリムジンからゆっくりと出てきた人物に、車の中で様子を窺っていたライカはハッとした。依頼の女だ。

「あなたがベリル・レジデント」

 女は、これだけの銃口を向けられても怯える様子を少しも見せない男に鋭い視線を刺した。加えて、写真で見るよりも端正な容姿に息を呑む。

「大人しく来てもらえるかしら」

「理由によってはね」

「あなたの不死が必要なのよ」

「名を聞いて無かったな」

「シャロン・リッツバークよ」

 そうだったかしらと躊躇いなく答えた。シャロンと並ぶように立っている男たちの手には、いずれもライフルが構えられ、この状況で眼前の獲物を逃すはずがないと確信しているのだろう。

「恋人が私に倒されたとか」

「あなたを捕まえるためよ」

 手段を選んでいる時間はないの。肩をすくめて悪びれる様子もなく言い放つ。

「出るな」

 こっそり出ようとしていたライカは、ベリルの声に思わずドアノブから手を離した。素直に従ったことをライカの気配で確認し、女に向き直る。

「お前の言葉は聞き入れられない」

「まだ理由を言ってないわ」

「奴を殺すつもりなのだろう」

「えっ!?」

 聞こえた言葉にライカは目を丸くした。なんで俺は殺されなくちゃならないんだ!? しかし、彼女の顔が嘘ではない事を示していた。

「そうよ」

 あなたを見つけた以上、あの男は邪魔でしかない。その言葉が合図となり、一斉に銃口がベリルの車に向けられる。

「わあっ!?」

 俺は死ぬのか!? 金属の破片が激しくぶつかる音に頭を抱えて縮こまった。恐怖に心中でセシエルに助けを求める。

「あわわわっ!?」

 止まない銃声に体が震える。しかし──数十秒ほど続いたあと、撃ち尽くしたように銃撃はぴたりと止まった。

「あれ?」

 ライカは、あれだけの攻撃に少しも痛みがない事に気づいて頭を上げる。自分を見回すも、まったくの無傷だ。

「……防弾?」

 窓のガラスさえ割れていない事に驚き、上半身を起き上げてベリルの背中を見つめた。

「特別仕様でね」

 悔しげに顔を歪める女に微笑み、ピックアップトラックに向かう。

「待ちなさい!」

 声を張り上げてベリルを制止するが、その歩みは止まらず振り返る事もなく車に乗り込んで走り去った。

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