*依頼
新米ハンター、ライカ・パーシェルの元に一人の男が依頼を持ちかけていた。
ライカのいるその建物は大きいとは言い難く、ある程度の生活が可能なだけの物置のような無骨な造りだ。おそらく定住しない者が短期間の住処とするための貸し家なのだろう。
「ベリル・レジデント?」
「そう、彼を捕まえてもらいたい」
細身の男は暗めのスーツに身を包み、若干の威圧を放っているようにも感じられる。黒いサングラスは表情を隠すためだろうか。
ライカは新米といっても、すでに二十七歳になっている。まるで熊のようにガタイだけは大きくて、いっぱしのようにも見受けられるが一人前になったのはつい二年前である。
艶のないブラウンの髪は肩まであり、青い瞳に彫りの深い顔立ち、草色のミリタリー服にタクティカルベストを合わせた恰好だ。
ここはアリゾナ州──アメリカ合衆国の南西部にある州である。州都および最大都市はフェニックス市。
州内にはグランド・キャニオン国立公園があり、そのほか多くの国立の森、公園、保護地域がある。
そのせいかどうかは解らないが、ニューヨーク州などのような近代的な街並みとは多少異なっている。とはいえ海外の人間の想像とは違い、ほとんどの州は田舎町が広がっている。
ライカの職業であるハンターとは、主に依頼を受けてその対象を捕える者の事だ。相手の生死は依頼主の意向になるべく沿う形で行われる。つまり、場合によっては暗殺もこなすという事になる。
善悪はハンターのスタイルに委ねられるところだが、ライカは「正義のハンター」をうたい文句に活動していた。
「ふうん」
ライカは渡された写真をマジマジと眺める。金髪のショートに明るい緑の瞳の青年だ。随分と小柄な感じで自分より少し年下かなと眉を寄せる。見た目的に女にはモテるタイプかもしれない。
写真の画像は多少粗く、詳しい面持ちまでは解らなかった。
「こいつが何か悪いことでもしたのか?」
悪人には見えないが。
「ええ。そうなんです。もう極悪人で、我々も手を焼いているのですよ」
あなたのお噂は兼ね兼ね耳にしています。新進気鋭の星と呼ばれるあなたに是非、彼を捕まえてもらいたい。
男はライカを褒め称える文句をまくしたてた。
「で、いくらなんだ?」
ライカもここまで言われて悪い気はしない。緩む口元を引き締めて交渉を続けた。
「前金で一万アメリカドル。引き渡し時に五万」
随分な額だ、よほどの悪人らしい。ライカは示された額に口笛を鳴らした。
(作中でのレートは一アメリカドル=九十円)
「奴の消息は逐一、あなたにお知らせします。引き受けてくださいますか?」
「俺に依頼するくらいだから、やっぱり強いのか?」
ライカはしばらく考えたあと問いかけた。すると男はしっかりと首を縦に振る。
「そうです。奴は傭兵としても一流で、その技術を悪事に使っているのです」
「へえ」
そんなに悪い奴なのか……。ライカは眉間にしわを寄せた。
「お願いできますか?」
男はライカの顔色を窺うように、やや覗き込んだ。
──数十分後、男は外に出ると顔をしかめて車で待っていた仲間に帰るように手で促す。
「引き受けたんですか?」
待っていた大柄の男は出てきた男に声をかける。
「ああ、快くな」
細身で長身の男は口角を吊り上げて答えた。
「捕まりますかね」
「どうだかな。奴が調子に乗るタイプで良かったよ」
いくら新米ハンターでも慎重なタイプには依頼を持ちかけにくい。あの歳でまだ新米だというのには驚きだが、一人前として認められたのが遅いのならば頷ける。
もっとも、本当の理由をこの二人は知るよしもないのだが。
「まったく。なんだってボスは今更、奴に狙いを付けたんだかね」
長身の男が溜息混じりにつぶやく。
「誰も狙わなくなったものに興味を示す悪い癖をお持ちですからな」
「みんな興味を示さないんじゃない。興味を持ったって仕方がないからだ」
半ば呆れながら発した大柄の男に眉を寄せて素早く返した。
奴は「呪いの宝石」だ、遠くから眺めるだけに限る。男たちは肩をすくめて車に乗り込んだ。