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第八章第五話
私は元の世界に戻る決意を固めて、彼女にその方法を聞いた。
「決心は変わらないようね。」女は吐き捨てるように言った。「ああ。出来たら、タイムスリップする方法を教えてよ。」彼女は小さくため息をついて言った。「その方法は意外と簡単よ。そこのシャッター脇の地下街へ降りる階段を下りなから、元の世界へ帰りたいと念じるのよ。そこで目眩が起きれば、タイムスリップするわ。」私はシャッター脇の階段を凝視した。「行くの?」女の声が響いた。私はゴクリと唾を飲んだ。 私はシャッター脇の階段の前で、足を踏み出して、階段を降りるかどうか、迷っていた。「やっぱりやめたら?戻ってなにかいいことあるの?」「それはうまく帰れたら、それから考えるよ。この世界も面白いけど、透明人間はやっぱり、生きている手応えがないな。苦しいけど、現実感があるほうを選ぶよ。俺は。それじゃ。」「うまく帰れるように祈っているわ。さようなら。」私はその階段を降り始めた。