5/63
第一章第七話
バス停から、私は懐かしい故郷の海に向かって歩き出した。
満月が海の上に浮かびはじめて、あたりは暗くなってきていたが、月明かりのお陰で十分周りが確認できた。私は海岸に降り立った。懐かしい愛して止まない潮の香りが胸一杯に広がった。「私は、こんなに素晴らしいところを捨ててまで東京に出て、一体、何になりたかったんだろう?どうしたかったんだろう?」私は悔恨の涙を流し続けた。
私は海から歩いて5分ぐらいの自宅への道をゆっくりと歩いた。そして懐かしい自宅の前に着いた。透明人間は家に入るのに、苦労しない。真夏だから、窓を開けている一階の和室から家に入った。東京ではかんがえられないくらい、無防備な家だった。一階の台所に行くと、母とまだ幼い妹が遅い食事を取っていた。父は麻雀なのか、いない。私は階段を上がり、自分の部屋へ向かった。