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第一章第五話
透明人間になった私は、空腹を覚えた。そこで・・
繁華街へとたどり着いた私は、奇妙な事に気づいた。行き交う人々と視線が全く合わないのだ。皆、私の存在に気づいていないようだった。というか、本当に私に気づいてないのだ。どうやら私はここでは透明人間らしい。都合が良いことに服も一緒に透明になっている。少しずつ要領が飲み込めてきた私は、空腹を覚えた。
私は困っていた。長い入院生活で現金は持っていなかったし、ましてやこの時代のお金など持ち合わせていなかった。しかし、良く考えてみれば、そもそも透明人間と化した私は普通に飲食店で食事を取ることはできないのだ。私は考えた挙げ句にマクドナルドの廃棄処分のハンバーガーを漁る事にした。なんとかそれで一息ついた私は、国鉄(まだJRというハイカラな呼び名ではなかった)の静岡駅の駅ビルに向かい、私の家の方に向かうバスに乗り込んだ。これは透明人間の方が楽だった。バスは懐かしい風景を横目に走った。