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相棒の定義と、最低生存確率

 森での一件から三日。


 父に烈火のごとく叱責され、母に静かに説教され、護衛は倍になった。


 だが。


 本当に変わったのは、レオンの中だった。



 夜。


 天井を見つめながら、レオンは小さく呟く。


「……リリィ」


『待機中』


 即答。


 機械的。


 だが、以前よりも“そこにいる”感覚があった。


「この前さ」


『戦闘補助事案の件ですか』


「事案って言うな」


 寝返りを打つ。


「俺、死ぬとこだったよな」


 わずかな間。


『致死確率7.3%』


「一桁かよ!!」


 布団を蹴る。


「ほぼ死んでるじゃねぇか!!」


『訂正。高確率で生存』


「揚げ足取るな!!」


 だが、胸の奥はまだ冷えている。


 あの瞬間。


 確かに終わると思った。


「……助けたのはお前だよな」


『補助演算および身体制御最適化を実行』


「だからそういう言い方やめろって!」


 小さく息を吐く。


「……ありがとな」


 今度は、ちゃんと。


 言葉にする。


 ほんのわずかに、応答が遅れる。


『生存確率向上は合理的判断です』


「照れるなよ」


『照れの概念未実装』


「嘘つけ」



 しばらく静かな時間が流れる。


 そして。


『質問があります』


「なんだよ」


『命名理由の再確認を要請』


 嫌な予感。


 すごく嫌な予感。


『名称:リリィ』


「それが?」


『花の名称と一致』


 止まる。


『分析結果:ルシエラが好む花と一致』


「ちょ、待て」


『感情的関連性 82.6%』


「やめろやめろやめろやめろ!!」


 枕に顔を押し付ける。


「それ言うなぁぁぁ!!」


『事実報告』


「違う!!違うからな!!」


『否定率 13%』


「勝手に確率出すな!!」


 ベッドの上で転がる。


 足をばたつかせる。


「俺はただ!!その!!」


『説明待機中』


「……響きが良かっただけだ!」


『虚偽率 71%』


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 完全敗北。


 五歳児、撃沈。


 だが。


 しばらくして、呼吸を整える。


「……別にいいだろ」


「俺が決めたんだ」


「お前はリリィだ」


 今度は逃げない。


『識別名:リリィ』


 わずかな間。


『固定』


 短い肯定。


 それだけなのに。


 胸の奥が、少しだけ温かくなった。



「なあ、リリィ」


『はい』


「お前さ」


「俺の力だよな?」


 即答は来ない。


 ほんのわずかな沈黙。


『補助機構は独立演算を保持』


「でも俺の中にいる」


『はい』


「俺が動かないと戦えない」


『はい』


「じゃあ俺の力だ」


 理屈は雑だ。


 でも、真っ直ぐだ。


『……再定義中』


「再定義すんな」


『新規概念登録』


「は?」


『相棒』


 短い言葉。


「勝手に読むな!」


『常時観測中』


「うるさい!」


 怒鳴りながらも、笑っていた。


 天井を見上げる。


「リリィ」


『はい』


「次は死なねぇ」


『目標設定:生存確率99%以上』


「いや100%だ」


『非現実的』


「黙れ」


 ほんの一瞬。


『……努力値最大化』


 目を閉じる。


 怖さは、まだ消えていない。


 だが今は。


 独りではない。



 眠りに落ちる直前。


 ふと、違和感がよぎった。


(……なんで俺)


 さっきの会話。


 言葉が、少しだけおかしかった。


 子供のはずなのに。


 どこか、大人みたいな言い回しが混じる。


 考え方もそうだ。


 五歳のはずなのに。


 どこかで“知っている”。


 説明できない何かを。


(……なんだ、これ)


 記憶を辿ろうとする。


 だが。


 掴めない。


 霧がかかったように、ぼやけている。


『思考負荷上昇。原因不明』


「……お前も分からんのか」


『該当データ未検出』


 静かな返答。


 だが、その“分からなさ”が引っかかった。


(……まあ、いいか)


 無理に考えるのをやめる。


 今は、まだ必要ない。


 そう判断した瞬間。


 思考は自然に沈んでいく。


 その奥で――


 ほんの一瞬だけ。


 見たことのない景色が、ちらついた。


 高い建物。

 光る板。

 見知らぬ言葉。


 だが、それもすぐに消える。


 残るのは――


 理由の分からない、懐かしさだけだった。


――――――――――――


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