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プロローグ1

はじめまして。


転生したら相棒もついて来ました。

しかも頭の中にいます。


正直ちょっとややこしいですが、たぶんなんとかなります。


よろしくお願いします。

――――――――――――――――――――

第一話

――ふふふっ、という声

――――――――――――――――――――

「……ふふふっ」

どこからともなく、笑い声が響いた。

それは甘く、愉しげで、

まるで戯れに世界を眺めているかのような声だった。

「この魂……」

暗闇の中、

光とも影ともつかぬ“何か”が、ひとつの魂を覗き込んでいる。

顔は見えない。

輪郭も定まらない。

ただ――口元らしき部分だけが、愉快そうに歪んでいた。

「異世界の輪廻に……そっと、紛れさせましょう」

本来あるべき流れから、ほんのわずかに外す。

正規の転生でも、神の裁定でもない。

帳簿の隙間に、紙切れを一枚滑り込ませるような――

あまりに静かな干渉。

「これで……私の悲願が、ようやく叶う……」

声は弾んでいた。

「ふふふふふっ……」

魂は抗うこともなく流れへと落ちていく。

女神の視線をすり抜け、

世界の管理からほんの一拍遅れた場所へ。

その“ズレ”こそが、

やがて世界を揺るがす原因になるとも知らずに。

――そして。

北方山脈の麓、ノースマーチ辺境。

灰嶺山脈の影に抱かれたその地は、常に冷たい風が吹き抜けている。

その夜、辺境伯城の一室には張り詰めた空気が満ちていた。

「もう少しです……! 奥様、どうか……!」

産婆の声が震える。

寝台の上では、一人の女性が歯を食いしばっていた。

強い体躯。

戦場の風に鍛えられたような鋭さを残す眼差し。

ブリュンヒルデ・フォン・グラーツ。

彼女は痛みに顔を歪めながらも、決して叫ばなかった。

「……まだだ……この程度で……止まるものか……!」

その手を、男が強く握っている。

ヴォルフガング・フォン・グラーツ。

辺境を守り続けてきた武人にして、この地の領主。

戦場では微動だにしない男の額に、

今は戦の時よりも深い汗が浮かんでいた。

「ブリュンヒルデ……無理をするな……頼む……!」

「黙って……見ていろ……あなたの子だ……!」

次の瞬間。

――夜を裂くように、産声が上がった。

「……おぎゃあっ!」

力強く、迷いのない声。

産婆が目を見開き、やがて満面の笑みを浮かべる。

「生まれました……! 元気な男の子です!」

張り詰めていた空気が、一気にほどけた。

ヴォルフガングは差し出された赤子を両腕で受け取る。

小さな体。

だが胸に伝わる鼓動は、驚くほど力強い。

赤子は泣きながらも、じっと父の顔を見つめていた。

「……なんだ、その目は……」

思わず、ヴォルフガングは苦笑する。

「まるで、この世界を見定めているようではないか」

説明のつかぬ感覚が胸をよぎる。

だがそれを振り払うように、

彼は赤子を高く掲げた。

「聞け、皆!」

部屋中の視線が集まる。

「この子の名は――」

一拍。

「レオンハルトだ!」

「獅子のごとく立ち、この辺境を守る者となれ!」

赤子は一瞬だけ泣き止み、

まるでその名を受け取ったかのように、小さく声を上げた。

その瞬間。

誰にも気づかれぬほど微かに、

世界の歯車が――軋んだ。

それから五年。

雪解け水が石畳を濡らす朝。

城の中庭では、幼いレオンハルトが木剣を振っていた。

まだ五歳。

だが動きは、子供のそれではない。

「そこだっ!」

振り下ろされた木剣が、訓練用の藁人形の首を正確に打ち抜く。

「……また当てたのか」

腕を組んで見守っていたヴォルフガングが、低く唸る。

「偶然です」

レオンは平然と言った。

「偶然で毎回急所を狙えるか」

「たまたまです」

ブリュンヒルデが小さく笑う。

「あなたに似たのだろう」

「いや、あの目はお前だ」

そんなやり取りが、朝の空気を和ませる。

昼には城下へ降り、

兵士たちに混ざって走り回る。

夜になれば暖炉の前で、

母の膝に頭を預けながら眠りにつく。

どこにでもある、家族の時間。

穏やかで、温かな日常。

――だが。

教会で行われたスキル判定の日。

水晶に触れた瞬間、

光がわずかに“揺れた”。

神官の眉が動く。

「数値は正常……しかし……記録が、定まりません」

「定まらない?」

「まるで……輪廻の帳簿から、わずかに外れているような……」

空白が一瞬だけ生まれ、すぐに消えた。

「害はありません。少なくとも、今は」

その言葉に安堵が広がる。

だが――

誰にも見えぬ高みで、

影が微笑んでいた。

(いい……実に、いい)

(すべては予定通り)

まだ何も知らぬ、少年。

やがて世界を揺るがす存在。

――そのことを、彼自身だけがまだ知らない。

――――――――――――――――――――


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