8話 稼がなきゃ生きていけません
入学式を終えて帰ると、また借金取りが来ていた。
でも今回は「二週間後に、1000万取りにくるね……?」と殊勝な感じだった。
アルミラが効いてるねー。
余裕ができて嬉しいけど、翌日から私は動き出す。
家計のため、少しでもお金を稼がなきゃいけない。
朝の教室で、隣にいるロリナに営業を始める。
「この飴、すごく美味しいんだよね〜」
安い飴を取り寄せて、それを舐める。
「……あんた。収納魔法あるのはわかるけど、出す物も特別よね」
本来であれば隠すべき案件。
しかし私には余裕がない。
50億を返すにはなりふり構っていられないよね。
「外国にツテがあって、珍しいものを取り寄せられるんです」
「一個、渡しなさいよ」
「喜んで!」
満面の笑みで、私は空の手を差し出す。
ロリナはきょとんとする。
「友達価格で、1000リルです」
「はあ!? お金取るわけ!?」
「私も心苦しいのですが、仕入れがあるんですよ」
「……ナメないでくれる。そんなのいらない。飴くらい家に帰ればあるし」
ロリナがまたツンツンとし出した。
やっぱり強気設定すぎたかな……。
「——珍しい包装ね。色とりどりで素敵……。初めてみたわ」
ところが、他の女子が興味をもってくれた。
ちなみにフルーツ系で、いちごや葡萄など、たくさんの味を楽しめる。
「なんて書いてあるのかしら。どこの国?」
「日本っていう最果てにある国です」
「へえ……」
ロリナほど仲良くないので、他の生徒には少し強気にいってみる。
そのくらいじゃないと、借金返済なんて到底無理だ。
「一つ、2000リルで販売しています。遠い異国の味を堪能してみませんか?」
どんどんと生徒たちが集まってくる。
さすがに二千は高いかと不安だったけど、意外にもすぐに硬貨を渡す生徒が多い。
「これちょうだい」
「私はこっち!」
特に女子がお買い上げしてくれた。
やはり貴族や金持ちの子が多いだけある。
この聖ロマーリオ学院は、私にとってただの学び舎じゃない。
フリーマーケットや!
大阪のおばちゃんみたいなノリで、拳を掲げて立ち上がる。
飴は完売間近だ。
ガタン。
ラスト一個となったとき、ロリナが机を吹っ飛ばす勢いで立ち上がった。
若干悔しそうな顔で、硬貨を差し出してくる。
「早く、よこしなさいよ」
「はい! 友達価格で1000リルになります」
飴を渡す。
開け方がわからないロリナにレクチャーしてあげる。
飴を口に入れた瞬間、パァァと彼女の表情が明るくなった。
「なにこれ……美味しいっ!?」
こちらにある飴よりは、日本の飴のほうがレベルは相当に高い。
「これ、なに味なの?」
「桃ですね」
「桃!? あたし、実は桃って食べたことないの。こんなに美味しいのね」
「よかったら、そのうち桃も仕入れておきますよ」
ノリノリの私に対して、ロリナはジト目で見てくる。
「あんたってさ、すっごいガメついわね。根っからの商売人って感じ」
そうかもしれない。
でもロリナには見えないよね。
私の背景に鬼のように積まれた50億リルという大金が。
ガメつくならなきゃ、生きていけない。
「──また、妙な物で稼いでるみたいだね」
ニヤニヤしながら、アレジオが声をかけてきた。
私はすまし顔で返事をする。
「ブスマン家がお金をあまり出してくれないので、家族が路頭に迷いそうなんです」
「僕から言ってあげてもいいよ。ここで僕の手にキスして、永遠の愛を誓ってくれたらね」
隣でロリナがオエッという顔をしている。
心情は私もまったく同じだ。
ただ、ここは情を抜いて冷静に考える。
二週間で1000万リル返せるかどうか……。
「お断りします」
多分いけると思う。
アレジオはスッと目を細めた。
モラハラが始まる合図でもある。
「ふーん。っていうか君さ、稼いだお金は婚約者である僕の物なんだ。その飴だって、もらう権利があるんだよ」
「契約書がある、ということですか?」
「へ?」
「契約書があれば、お見せください」
財産共有が書かれた巻き物は、以前アルミラに食べられている。
アレジオは急にたじろぎ、どもりだす。
「い、いまは家にあって」
「それでしたら、これは私の物ということになります」
あれが有効だったら搾取されまくっていたと考えると、アルミラは最高の働きをしてくれたよね。
ここで、教室が騒がしくなる。
「——うそっ!? フィロー殿下がどうして!?」
「きゃあっ! ねえ、わたし髪型変じゃない?」
もう女子たちの感情が噴火しまくっている。
第三王子で超絶イケメンのフィロー様が入ってくると、教室は一気に華やいだ。
「リナリー、Aクラスだったんだね!」
なんとフィロー様が探していたのは私だったらしい。
「特待試験、合格おめでとう。一緒の学院に通えて嬉しいよ」
「フィロー様が、私に試験を勧めてくださったおかげです!」
「君のポテンシャルは普通じゃないんだ。Sクラスじゃないのが不思議だよ」
「フィロー様は、やっぱりSですよね」
「一応ね。初日からラットの掃除係を押しつけられそうになってさ……」
あれ、Aクラスだけじゃなかったんだ。
担当になったクラスに同情する。
すごく良い雰囲気だったのだが、横やりが入る。
アレジオが敵対心を剥き出しにしたのだ。
「この学院にいる間は、身分は関係ありません。殿下と呼ぶことも禁止されています」
「そうだね。みんな対等だ」
「ハッキリ言わせてもらいます。リナリーとの距離が近くありませんか」
「……そうかな。ごめん、嫌だったかい?」
フィロー様が申し訳なさそうにする。
私は高速で左右に首を振って、意思表示した。
「とんでもありません。私はすっごく楽しいです!」
「リナリー! これを見ろ!」
ブチギレのアレジオが出したものは、契約書だった。
「婚約規定第11条。『妻となる者は異性と誤解されるような関係を持ったり、必要以上に親しくしてはならない』今回の件は、これに当たるかと」
まず巻物持ち歩いているのが怖い。
アレジオは周囲のドン引きなど気にしないドヤ顔を披露した。
我慢できないので抗議する。
「アレジオ様。お言葉ですが、友情も認めないということですか。恋慕の情があると訴えるのなら、それを証明してください」
「……それは」
「友人と話す時間くらい、与えていただけると助かるのですが」
「……好きにしたらいい。でも今月は援助できない。それに学食代も出さないからな。野良猫の餌でも探すことだね」
アレジオは捨て台詞みたいなのを吐いて、自分の席に戻った。
胸を撫で下ろすと、フィロー様が嬉しそうに言う。
「ありがとう。友人として、これからもよろしく」
「こちらこそ」
「ところで、このいい匂いってなにかな? ずっと気になってたんだ」
いま、みんなが飴を舐めている。
外からくると、香料を感じやすいのだろう。
もう売り切れたので、新しいのを取り寄せる。
飴袋を出して見せると、フィロー様が驚く。
「収納魔法が使えるんだね。それに珍しい包装に文字だ」
「日本という極東の国の物です」
飴を渡そうとすると、ロリナが待ったをかける。
「待ちなさいよ。お金取るの忘れてるんじゃないの?」
「あ、そうなんだ。いくらかな」
「ええと……」
「2000リルよ!」
この子、殿下相手でも我を通しまくる。
学院内とはいえタメ語なのも度胸がある。
フィロー様からお金を受け取り、飴を一つ渡す。
グレープ味を食べたフィロー様の目が丸くなる。
「こんな美味しい飴、初めてだよ……!?」
感動するフィロー様に、他にも色んな味があるんですよと説明する。
「袋ごと、売ってくれないかな?」
「いいんですか!?」
本当に、全部お買い上げてくれた。
ありがたいので、おまけを取り寄せる。
うめえ棒のコーンポタージュ味(20P)だ。
「一袋購入特典です。うめえ棒、食べてみてください」
「すごく楽しみだよ! また、後で話そう!」
彼は飴袋とうめえ棒を大事そうに抱いて、教室から出ていく。
ちなみに飴袋は、二十五個入りだ。
「お前ら、席につけ。……なんだ、いい匂いがするな」
アバイン先生が入ってきた。
教科書を開くフリしながら計算する。
今回の売り上げ
1000×1=1000
2000×20=4万
2000×25=5万
計9万1000
かなりの収入ではないだろうか?
これを返済に充てると残りは……
49億9990万9000
お父様、お母様、夜逃げしましょう(涙)
落ち込んでも仕方ないので、次の商売に焦点を当てる。
次のターゲットは——胃袋でいこう。
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