6話 初日は狙われやすい
大切な聖ロマーリオ学院の入学式。
気合いの入った馬車が渋滞する中、ピンク色のママチャリが爆走していく。
もちろん、私だ。
「通りまーす!」
チリンチリ〜ン! とベルを鳴らすと歩行中の生徒たちの注目を浴びる。
馬車から顔を出す人も多くいた。
今朝は雨がふったのか、水たまりが多い。
それを避けながら走る。
「なんだあれは!? 魔道具か?」
「動きが激しいな、野生人じゃないか」
周りが騒ぐ中、水たまり多発ゾーンに差し掛かる。
あっ、ミス……。
泥水を跳ね上げてしまう。
それが、馬車から顔を出してた人にかかった。
「うわっ!? ……リナリー! 」
アレジオだったんだ。
気づいていないフリをして、そのまま進む。
白亜の門柱に到着すると、私はママチャリを収納する。
間に合ったと安心していたら、三人組の男女がいきなり絡んできた。
「お前、収納魔法が使えるのか」
この目つきの悪い男子は、雰囲気的に上級生だろう。
「さっきしまったのは、なんだ?」
「答える必要はありません」
「生意気な一年だな。お前、魔力量はどのくらいだ?」
「知りません」
「エーナ、調べてみろ」
エーナと呼ばれた女子が、私のことを凝視した。
虹彩は茶色なのだが、そこが一段明るくなっている。
「エッ……こいつ、まったく魔力感じないんだけど。赤ちゃんより低い気がする」
「Dクラスの生徒ってとこか。それなら、オレたちについてこい」
エーナともう一人の女子が私のことを挟んで連行する。
先頭を歩く男子は、私を校庭の隅まで連れてきた。
「この学校は実力主義なんだ。弱者は軽視され、いじめられる。だから、オレたちがお前を守ってやる」
「そうそう、特別有料価格でね!」
いかにも性格悪そうな笑みをする三人をじっと見つめる。
私のことを身分の良い金持ちの娘と勘違いしているらしい。
こっちは借金50億の家の娘だよ?
「ちなみに有料価格ってどのくらいですか」
「そうね〜。月額なら30万、年額なら300万。年額の方がお得だよ」
サブスクスタイルは異世界でも流行ってるのか……。
指を三本立てるエーナからさりげなく視線を外し、取り寄せの検索を行う。
アルミラに使ったので、残りは3200P。
短期決戦勝負でレンタルが良い。
業務用エンジンブロワーR 900(1分)
生前、父が実家の落ち葉や草を掃除するときに使用してたものだ。
私もよく手伝わされた。
「私、金欠なので無料版でお願いします」
「ねえよ。あんたは私たちにいじめられて、パシリ決定ね」
予想通りだ。
遠慮なくエンジンブロワーを1分だけ取り寄せる。
背負うタイプのかなり重いやつだ。
レンタルはオイルなども入った状態なので、すぐに使える。
「なに、その変な物……!?」
相手が驚いている間に、私はそれをランドセルみたいに背負う。
「おっも……。久しぶりだからね」
ホースの先のグリップを握って、スイッチを入れる。
ポンプを押して燃料を送り、スターター紐を思い切り引いた。
ドルンッ! ボボボボボボボボボ……
低い音が響くと、エーナたちは後ずさる。
「なんなの、その汚い音……」
小気味よい振動が背中から伝わり、ガソリンオイルの焦げた臭いが漂う。
「では、お掃除の時間です」
右手のトリガーを親の敵かというくらい握り込む。
ブァァァァァァァァァァン!
つんざくような爆音と共にエンジンの回転数が上昇していく。
風を出す反動もすごいけど、必死に制御する。
校庭の地面に風を向けると、軽い砂たちが前方に舞っていき、砂埃を発生させる。
「うえっ!? や、やめろ!」
三人は目や口に砂が入らないように、顔の前に腕を持ってくる。
爆音と風圧と砂の連携に、どうしていいか判断がつかないようだった。
そこでトリガーを緩めてあげる。
「まだやりますか? この風を顔に当てたら、酷いことになりますよ」
「……くそ」
「やるんですね」
ブロワーを彼らに向けると、やせ我慢も限界を迎えた。
エーナが叫ぶ。
「わかった! 悪かったから、それ仕舞ってよ」
戦意喪失したみたいなので、私はブロワーの電源を切った。
そのタイミングでブロワーが消える。
「……お前、なんなんだ?」
「ただの貧困令嬢です。それでは」
遅刻気味なので私はダッシュする。
貧困な奴があんなもの持ってるかよ……、と聞こえてきた。
さて、入り口ホールに机があり、その上に木札が一つだけ置いてあった。
私の名前が刻まれてあり、隣にAと書いてある。
最高がS、最低がDだ。
「私、Aなんだ……嬉しい〜っ」
魔力1なのに、ありがたいね。
さて、三階に上がって、Aクラスのドアを開けた。
「すみません、遅れました!」
三十人以上はいる生徒たちが一斉に注目してくる。
アレジオとロリナもいるのだが、なぜか怯えた様子だ。
「初日から遅刻とは、なめられたもんだ」
担任教師であろう、二十代後半くらいの男性が私を睨む。
威圧で息が止まりそうだ。
この人は黒髪で背が高く、アイドル風の甘いマスクだ。
相当な美青年なのに、中身は鬼ですか?
「初回だから、軽くしてやる。連帯責任な」
先生が教壇の床を一度軽く踏む。
瞬間、静電気のようなものが私の足から頭の先まで走り抜けた。
他の生徒にも電気が走ったらしく、みんな硬直していた。
「学院では、泣いても誰も助けてくれんぞ。肝に銘じろ」
私はうなずいて、空いている一番後ろの席に座る。
全員揃ったのを確認すると、先生はにたりと笑う。
「ようこそ、聖ロマーリオ学院へ。俺は担任のアバインだ。早速だが、いまからお前たちの才能を調べる。ついてこい」
挨拶もそこそこに、先生は教室から出て行く。
私たちは顔を見合わせ、すぐに後を追う。
屋内運動場の裏にある小屋の前。
そこで先生は足を止めた。
「いまからここに入る」
「ちょっと、これなんの臭いなの!?」
あまりの激臭にロリナが鼻を抑えた。
生ゴミと腐った卵を混ぜて、それを煮詰めたような酷い悪臭が鼻につく。
生徒の中には、オエッとえづく人まで出ている。
小屋の中から漂ってきているみたい。
「中でなに飼ってんのよ!? こんなとこ、あたしは入らないっ」
「そうか、ならお前は退学だ。帰れ」
「なッ……!?」
あ、この目は本気だ……。
泣きそうになるロリナ。
それを嘲笑うかのように、先生は爆弾発言する。
「これから行うテスト次第では、中にいる奴らと仲良くしてもらう。——毎日な!」
なぜか先生のテンションが高めになる。
ゾクゾク、と私の背筋に寒気が走った。




