3話 ドラゴンに襲われました
——チリン、チリン
こちらリナリー・フォルジア。
ピンクのママチャリで大地を暴走中。
「お尻が痛い、脚が重い……!」
ヒィヒィ言いながらも無事、ドラゴ山に到着する。
途中少し迷ったけれど、二時間ほどの運動だった。
購入で正解だったね。
麓から山を慎重に登っていく。
熊やら猪も怖いが、それ以上に魔物が危険だ。
いまあるのは、鍋やフライパン、ガスコンロみたいな料理道具ばかりだ。
あとは日用品。
そこで、武器を手に入れる。
サバイバルナイフ 2500P
熊スプレー 3000P
これで残高8950P。
右手にナイフ、左手にスプレーを装備して山を探索していく。
幸い魔物にも遭遇せずに中腹までたどりついた。
目についた草花などを袋に入れていく。
「これ、合格できるかも」
安心すると小腹が空いたので、周囲を確認して木陰で食事の準備をする。
ウインドウで検索していると、近くで重たい音がした。
すぐに、私に暗い影が落ちる。
上を向くと、漆黒の体に深紅の目をした——ドラゴン。
三、四メートルはゆうにある。
立派な両翼を折りたたみながら、ドラゴンは私を睥睨する。
『妙な気配がすると思えば、ただの人間か』
——死んだ。
人生これまでだ。
熊なんて子犬に思えるレベルの迫力と威圧感に気圧され、私は息をするのも忘れる。
『この山は余の住処だ。無断で侵入したということは殺されても文句はないな?』
呼吸が浅くなり、全身が震え出す。
本能がひれ伏せとメッセージを伝えてくる。
「かてかて……勝手に入って、すみすみすみませんでしだ……」
『謝罪などいらぬ。逃げるか抵抗するか、余を楽しませろ』
逃げるといっても、ただ走っても追いつかれるのがオチでしょ……。
右手に握る冷たいスプレー缶の感触に意識を集中する。
一撃食らわせて、その隙に逃げる。
一縷の希望を見いだした私はスプレーの安全ピンを抜いて、ドラゴンに浴びせる。
いい感じに顔にかかってくれた。
「効いたでしょ……!」
『むっ、これは————ピリピリして面白いな!』
ピリピリで済むんだ……。
なんか喜んでるし。
ドラゴンは鼻がむずむずしてきたようで、くしゃみをする。
『フィクション——』
とんでもない風圧に襲われ、抵抗する間もなく吹き飛ばされる。
転がって、近くの木に背中を打ちつけて止まる。
強い痛みが走る。
呼吸がし辛い。
それでも、近づいてくるドラゴンを相手に最後の賭けに出る。
「私が山に入ったのは……貢ぎ物をお渡しするためです」
『貢ぎ物とは、その小さな剣か? 死にたいってことだな』
私は首を左右に振って、サバイバルナイフを収納する。
ウインドウで、すぐさま食べ物を探す。
でもドラゴンの好きなものなんて知らない。
「……これです」
私の手に握られたのは、ビックポークフランク。
ヘブンイレブンのやつでマスタードとケチャップのタレつき。
パキッと開けて、タレをフランクにのせる。
綺麗に二本線がのった。
すかさず、それにかぶりつく。
『……ハ?』
なんでお前が食ってんの? そんな顔をしている。
食べた理由は二つある。
「毒ではないと証明するためです」
あとは、空腹で死んでたまるか! という私の意地だ。
『余の分はあるのだろうな?』
「もちろんです」
『出せ。食ってやる』
「私の命と引き換えです」
ドラゴンと交渉は恐ろしいが、ここで引いてはダメだ。
『……美味ければな。入れろ』
ドラゴンが大口を開く。
串を抜いて、二本線ののった肉をその中に入れる。
『むっ……』
「ど、どうですか?」
『——ウメェエエエエ!』
「ひぇっ……」
『もっと食わせろぉ!』
「……へ? は、はい!」
私はすぐに、もう一度取り寄せてドラゴンに献上する。
何本か食べさせると、ドラゴンは理性を取り戻したかのように落ち着いた。
『不思議な味だな……。しょっぱくてピリ辛で、それでいて美味い。もっとなにか、ないのか? 余はドラゴンでは珍しく野菜も好きだ』
「なにか、作りましょうか?」
『それはいいな』
殺されたくない一心で、必死に動き出す。
ガスコンロやフライパンは元々入手していたので、それを出す。
あとは野菜や肉や調味料を取り寄せ、野菜炒めを作っていく。
恐る恐る料理を差し出す。
『…………美味い、な……』
「お口に合ったようで」
『おかわり』
「え?」
『余の体を見て、こんなもので済むと思うか』
「作ります!」
胡椒にしたり、醤油味にしたり、工夫して作っていく。
味を変える度、彼は尻尾を左右に振って喜んだ。
犬ですか……?
二時間もすると腕が上がらなくなり、残りポイントも三桁に減った。
「……あの、そろそろ材料がなくて」
『フム。まだ腹は満たされないが仕方あるまい。ご苦労だった。名前を聞いてなかったな』
「リナリーと申します」
『余はアルミラだ。命の他にも、なにかやろう』
おぉ、ご機嫌になってくれた!
私は現在の状況を伝えた。
アルミラの素材を一部でもいいので欲しいと要求してみる。
すぐに牙を根元から折って、私に一本くれた。
「えっ、大丈夫なんですか!?」
心配は杞憂。
すぐに新しい牙が生えてきたのだ。
サメ以上の再生能力があるらしい。
さすがドラゴン、なにもかもが規格外だね。
『それと、その他人行儀な態度はよせ。ドラゴンの世界では餌を多く奢ってもらったら、そいつとはもう友達だ』
「えっと、私とアルミラはもう友達」
『そういうことだ。また会いにこい。こないなら余からいこう。飯の準備は常にしておけよ』
それ召使いね。
でも、あのダークドラゴンと仲良くできるなんて信じられない。
もっと話したいけど、試験があるので帰ると伝えると背中に乗せてくれた。
『送ってやろう』
背中に毛が生えている部分があるので、そこをしっかりと掴む。
高度があがっていくに連れて感動も高まっていく。
肌をなぞる風が気持ちいい。
「最高〜!」
私の声が大空に吸い込まれていく。
試験官や受験者たちの集合場所に、アルミラは着陸する。
すると、その場の全員がドラゴンを見て腰を抜かした。
泡をぶくぶく吹き出す人までいる。
ロリナも顎が外れそうなほど口をあけ、目をパチパチとさせる。
「皆さん、土下座の練習はしてきましたか?」
私は、にっこりと微笑みかけた。




