2話 魔力? 無くても問題ありません
家族に相談してみたところ、特待試験を受けても良いということになった。
ばんざい!
試験当日、私は聖ロマーリオ学院を訪れた。
校門を通って瀟洒な校舎の中を横切ると、広々とした校庭があった。
中央には、すでに受験生が三十人ほど集まっていた。
まずい、みんな武器とか持っている。
私だけ手ぶら普段着……。
何人かの試験官と学長らしきおじさんがいる。
「学長のロンジーオだ。特待試験の前に魔力測定を行う。その結果は、試験にも反映されるぞ」
魔力量を計る魔道具があるようで、試験官がそれを持ってくる。
ただの羊皮紙に見えるけれど、それに触れると数字が出るらしい。
やっぱり魔法のある世界ってすごい!
ワクワクしてくる。
「——1400」
最初に触れた生徒の魔力量を試験官が読み上げる。
そして、次々と鑑定が行われていく。
魔力は1000〜5000くらいが多いみたい。
鍛えれば増えるので、少なくても落ち込むなと学長が口にしていた。
「——8200」
「「おおおー!」」
すごい、ダントツだ。
出したのは、ツインテールの可愛い女子。
背は低めだけど、緑眼で勝ち気な笑みを浮かべている。
有名な人なのか、近くの人たちがひそひそと話す。
「ソドル伯爵家の次女、ロリナだ」
「ああ、かなりのやり手らしい。性格が終わっているという話だけどな」
ふむふむ、あまり関わりたくはないのだけど……なぜかあちらが私に絡んでくる。
「ふん。残すはあんただけよ。あたしの魔力を超えるとは思えないけどね」
なるほど、私が8200未満ならば一位通過だもんね。
けれど残念だったと言わざるを得ない。
フィロー様も仰っていたように、私には神のご加護がある。
桁の一つや二つ、なんなら三つくらい違うかもしれない。
フッと勝ち誇った顔をしてみせる。
ロリナがムッと目を釣り上げた。
「なんてむかつく顔なの」
「ごめんなさいね。元からこういう顔なんですよ」
私は軽やかな足取りで、試験官のところに向かう。
最後の一人ということもあって注目も最高潮だ。
「君、これに触って」
「ええ、よろしくてよ」
試験官の言うとおり、羊皮紙に触れる。
ブッ! と試験官が噴き出す。
こんにちは、規格外の数字。
「——1」
……ん?
いま1って言った……?
誰も予想しなかった数字に、校庭の空気が一瞬で死んだ。
最初に口を開いたのは学長だった。
「1とは、なにかの間違いではないのか? 仮にも特待試験に挑む者だぞ」
「いえ、本当に1なんです」
証明するために試験官は羊皮紙を学長に見せる。
ガチで1だとわかった学長は絶句していたのだけど、それは私も同じだった。
1って……恥ずかしいってレベルじゃないって!
あんなにイキがったのに、ぶっちぎりの最弱だったのだ。
確かにみんなとは桁が違ったけど……。
「あーはっはっはっは! 1ですって! あんた、魔力1って逆に稀少よ。笑いすぎてお腹痛いっ」
ロリナがここぞとばかりに馬鹿にしてくる。
顔が熱い。火が出るほどに。
参加者全員もれなく爆笑している。
なんなら試験官も。
あんたは笑っちゃダメでしょ!
「キミ、来るところ間違っちゃったねえ。付き合ってくれるなら、次の試験手伝うよ?」
絡んでくる参加者が鬱陶しい。
次の会場までの移動中、私は散々馬鹿にされた。
ようやく解放されたのは、町の外にでてからだった。
王都のすぐ近くで、学長から試験の説明がなされる。
「稀少な素材を持ってくること。価値の高い物を持ってきた五名を合格者とする」
魔物なら牙や爪や皮など。
他にも植物、薬草、花、価値がつけばなんでも良いという。
ただし、集める場所が参加者によって違う。
さっきの魔力試験の結果がここで反映されるようだ。
「1位から10位はリング森、11位から20位はオリソン湖周辺、それ未満はドラゴ山で素材を探してもらう」
一部の参加者が一斉に頭を抱えて呻き出す。
みんな、20位に入れなかった人たちだ。
この反応を見越していたように試験官が告げる。
「リタイアも受け付けます。こちらへ」
21位以下がそちらに向かう。
「ドラゴ山にはダークドラゴンが棲む。その判断は正しい。来年、待っているぞ」
学長が慰めるように言って、21位以下を全員リタイア扱いにする。
「待ってください。私はリタイアしませんけど……」
人々の動きが一瞬固まる。
ロリナがツインテールを跳ねさせながら近づいてくる。
「あんた、頭大丈夫? 魔力1しかないのに山に入ってなにするわけ?」
「薬草とか取ろうかなと思いまして」
聖ロマーリオは卒業後の就職が最高レベルだと聞く。
貧乏一家を支えるにしても、絶対に学生になっておきたい。
あと、私を散々馬鹿にした参加者たちを見返してやりたい。
ロリナは息を大きく吸って——
「無理無理無理無理無理無理無理ィィー! あんたがもし素材を持ってこられたら、ここにいる参加者全員で土下座謝罪してあげるわよ! ね?」
他の参加者たちも同意見のようで下卑た笑みを浮かべながら頷いていた。
言ったな……。
絶対に土下座させてあげる!
「その代わり、もし無理だったら一生馬鹿にしてあげるわ」
ロリナの高笑いが響き渡る。
学長はさすがに否定しないが、真剣な面持ちでリタイアを勧めてくる。
「死んでも誰も責任は取らないよ。無事に帰って来られないかもしれない。来年にかけたらどうかね?」
「いえ、やります」
試験官たちが動揺して、学長に相談を始める。
やめさせるべきだと話し合っているようだ。
学長がハッとなにかに気づく。
「——待て。測定の常識では、10未満は測定できないのではなかったか?」
「あっ……。赤子ですら10は極稀というのが常識です」
「もしや、桁が大きすぎて計りきれなかったのでは!」
違います。
「あるいは、歴史上の魔女のように魔力を制御しているとか!」
もっと違います。
たぶん、本当に魔力が少ない。
だからこそ、神様はギフトをくれたのだ。
でも都合良さそうなので、演技しておこう。
「私も色々と秘密が多いもので。あまり触れないでもらえると助かります」
間違いではないのか……とみんなの見る目が変わる。
でもロリナだけは、相変わらず疑ってくる。
「だったら、さっきの羞恥心まみれの顔はなに? 絶対にザコでしょ」
うるさい。
本当にこの人、苦手だ。
もう無視して話を進める。
「学長、花や草でも希少ですよね?」
「うむ。あの山の中腹にあるものなら、それだけで評価は高い。ただし危険を感じたらすぐに戻ってくること」
私の意志が本物だと理解した学長は、渋々許可を出す。
試験はすぐに開始された。
山までの地図ももらえた。
制限時間は午後7時まで。
ドラゴ山は徒歩で片道4時間以上かかるらしい。
ギリギリだ。
そこで私は自転車を取り寄せる覚悟を決めた。
ママチャリ 18000P
ママチャリR 180P(1分)
マウンテンバイク 80000P
マウンテンバイクR 800P(1分)
非消耗品は、レンタル(R)もいける。
でも移動時間を考えると、購入した方がいい。
「よし、覚悟決めますか」
購入すると、目の前にピンクのママチャリが出てきた。
それに跨がり、ドラゴ山の方角を睨む。
「全員──土下座の準備しておいてよ!」




