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モラハラ婚約者があまりにも酷いので、やり返すことにした【連載版】  作者: セトガワ トウ


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13話 夜会と折れてしまったヒール

 豪奢な大館の前で、着飾った貴族の男女が受付を済まして中に入っていく。

 すでに受付は済ませたが、アレジオとその両親は中には入らない。

 リナリーの到着を待っているのだ。


「フォルジア家に送った馬車の到着が遅いな」

 

 髪をオールバックにした痩身の壮年が苛立つ。

 ブスマン伯爵だ。


「服装がなくて、困っているのではありませんの?」

 

 気合いの入ったドレスを着た夫人が薄く笑う。

 口元がアレジオにそっくりだ。

 

「大丈夫です。今日は素晴らしいドレスを着てくる、とリナリーは言っていました」

 

 アレジオは敢えて期待値を上げる。

 これでみすぼらしい格好でくれば、両親の怒りが倍増するからだ。

 

「さあ、リナリーが来ましたよ!」

 

 彼女を乗せた馬車が到着して、ドアが開かれる。

 ワクワクした顔のアレジオだったが、すぐに顔が凍りつく。

 深く艶めいた深紅のドレス。

 滑らかな生地は光を柔らかく弾き、動く度に裾が静かに波打つ。 

 リナリーはそのドレスを完璧に着こなしていた。

 下品でない程度に白い肌をのぞかせ、胸元から腰へ流れる曲線も美しい。

 

「おぉ……!? これは実に見事だ!」

 

 真っ先に感嘆の声をあげたのは伯爵だった。

 今日のリナリーは化粧も含めて完璧で、夜会の主役と言われても誰も疑わないだろう。


「……あの髪飾りやヒールもすごいわ。わたくしより、高いのを使っているのかしら」

 

 そこは女のプライドなのか、夫人が悔しそうにする。

 

「ブスマン伯爵閣下、伯爵夫人。お久しぶりでございます」

 

 リナリーがカーテシーしてみせると、伯爵の頬が緩んだ。

 

「リナリーよ! 久しぶりに見たが、相変わらず美しいなッ」

「伯爵様こそ、人とは違うご威光を放っておられます」

「ふはは! そうかそうかっ。いや良かった、これならば誰に見せても恥ずかしくないどころか自慢できる。お前の言った通りだったな、アレジオ!」

「え……ええ……」

 

 冴えない顔でアレジオはうなずく。

(なぜ、そんないい服を持っている?)

 疑問が頭の中をグルグルと回る。

 学校で多少稼いだ程度で、買える品ではない。

 初手から計画が狂ってしまい、アレジオは歯ぎしりをした。

 夜会の会場に入ると、そこは別世界が広がっていた。

 多くのシャンデリアが輝き、大理石の床に光を落とす。

 純白のクロスを張った長卓には銀の燭台と料理が並び、給仕がお酒をのせた銀盆を手に会場を巡っていた。


「貴族の交流会と銘打ってはいるが、実際のところはプライドの張り合いだ。なめられてはいかんぞ」

 

 敵を前にしたかのように、伯爵の顔つきが厳しくなる。

 ブスマン一家は有名ということもあり、すぐに人が集まってきた。


「これはブスマン伯爵、本日も堂々たるお姿でございますね。伯爵夫人、ご子息もお変わりなさそうで」


 顔見知りである貴族に、アレジオたちも笑顔でうなずく。


「ラモン子爵、ご無沙汰しております。そちらも元気そうで安心しましたぞ」

「ええ。そうはそうと、ご息女でいらっしゃいますか?」 

 

 子爵は最初からチラチラとリナリーの様子を窺っていた。

 気になって仕方なかったようだ。


「リナリー、挨拶しなさい」

「お初にお目にかかります、ラモン子爵様。リナリー・フォルジアと申します」

「……フォルジア? まさかあのフォルジア男爵家の?」

「はい。その男爵家だと思います」

「うちの息子の婚約者なのですよ」

 

 自慢げな様子で伯爵が告げると子爵は少し考え、すぐに状況を理解したようにうなずく。


「……資金援助ということですね。知っていれば、私も名乗り出たのですが」

「中々にできた娘でね。聖ロマーリオ学院に特待生で入学したのだよ」

「特待生で!? まさに才色兼備……! ドレスや髪飾りからして、普通じゃないと思っていました」

「さすが子爵、お目が高い。ドレス、ヒール、髪飾り。すべてブスマン家に伝わる秘蔵の品なのですよ」

「どうりで素晴らしいわけですね」

 

 息を吸うように嘘を吐くブスマン伯爵だが、リナリーはそれを指摘しない。

 ここで、子爵たちは異常に気づく。

 自分たちを囲む人が多すぎるのだ。

 二十、いや三十人はいる。

 それも男性ばかりだ。

 知らない顔も多く、伯爵は威嚇するように言う。


「君たちは、なんの用かね?」

「ブスマン伯爵、ご令嬢と一度お話させていただけませんか?」

 

 勇気ある若い男性が声をあげる。

 理由が憧憬だとわかるや、ブスマンの警戒心も解けた。

 満足気にする父を尻目に、アレジオは歯噛みする。

(ふざけるな……。どいつもこいつも、リナリーばかりじゃないか!)

 脇役どころか、一瞥すらされない。

 そんな状況に腹が立って仕方なかった。

 だがそれも、子爵の一言で変わる。


「残念でしたな皆さん。この方はご令嬢ではなく、アレジオ様の婚約者なのです」

「そう……ですか……」


 落胆のため息が一斉に漏れた。

 あわよくば懇意になりたいという思惑が破れたからだ。

 これを好機とみたのがアレジオだった。

 この状況、他の男たちにマウント取れるチャンスじゃないかと。

 

「すみませんね、皆様方。僕と彼女は相思相愛で深く結ばれているんですよ。そうだよな、リナリー!」

 

 肩を抱き寄せようと大きく腕を伸ばし、引き寄せる。

 ところが、いいタイミングでリナリーがしゃがんだため盛大な空振りに終わる。

 バランスを崩して転けそうにもなった。

 なんとか耐えたものの一連の動作は情けなく、人々から嘲笑が巻き起こる。


「足にゴミがくっついていたもので」


 リナリーはすまし顔で説明した。

 タイミングってものがあるだろう!

 そう怒鳴りたかったけれど、人々の手前アレジオは我慢した。

 

「きゃっ!?」

 

 誰かの悲鳴が響いた。

 近くで話していたグループの一人がよろけ、倒れそうになったのだ。

 スタイル抜群で、綺麗な赤髪の女性だった。

 どうやらヒールが折れたようだ。

 アレジオがリナリーに耳打ちする。


「ククッ、恥ずかしい女だよ。あれじゃもう退場だな。妹も来ていれば面白かったのに」

「妹?」

「あの生意気なソドル家のクラスメイトだよ」

 

 ここまで聞いて、リナリーはあれがロリナの姉なのだと知った。

 彼女は裸足の状態で困っている。

 周囲の貴族、特に女性たちの嘲笑の的にもなっていた。

 動き出したリナリーだが、その腕がアレジオに引っ張られる。


「いくべきじゃない。情けをかけても仲間だと思われるだけだ」

「では笑う側にいろと?」

「二択ならそうだ。貴族として生きたいのなら」

「爵位を守るだけの人生なんて、お断りです」

 

 掴まれた腕を振り切って、リナリーは走り出した。


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