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モラハラ婚約者があまりにも酷いので、やり返すことにした【連載版】  作者: セトガワ トウ


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11/13

11話 お城を綺麗にします

 王都ミガンダ。

 区画整理もされ、景観が美しい町だ。

 働き方は、週休二日制が基本。

 でも人によって、全然違ったりもする。 

 私も休日返上して働く予定だ。


「こんにちは。リナリーです」

 

 王城の一室のドアを開ける。

 侍女とメイド(下女)たちが何人もいた。

 ちなみに侍女の方が立場が上で、服装も違う。


「あら!? 来てくれたのリナリー!」

 

 侍女頭のアグネスさんが、私を抱きしめてくる。

 四十代の恰幅が良い女性だ。

 

「いまね、来週の建国記念日のために忙しいのよ。あなたが必要だったの!」

 

 ここで何度かバイトしたことがある。

 そのとき、日本製品を使って効率よく働いた。

 それが、アグネスさんの高評価に繋がってるみたい。


「報酬が弾むと聞いて」

「ウッ……。相変わらず、お金大好きなのね」

「ふぁい!」

  

 気合い入れすぎて、変な返事しちゃった。

 他の侍女、爆笑じゃん。

 

「とにかく、掃除場所を見せるわ」

 

 アグネスさんの後についていく。

 中庭の一角には、大きいテラスがある。

 本来は白い大理石なのに、いまはドブ色っぽく変色していた。

 何十人もの侍女とメイドが、デッキブラシで必死に擦っている。

 でも汚れは落ちない。

 うわ、指から血が出てるメイドもいるじゃん……。

 アグネスさんが、彼女に声をかける。


「血が出てるじゃない。あなたは休んでて」

「まだ大丈夫です。綺麗にしないと、みんなクビになるかもしれませんし」

「……ありがとう。せめて、手当てしてからよ」

 

 他の仲間が彼女を手当てする。

 アグネスさんが困った顔で言う。


「普段、使われていなかったの。汚れが染みついて、落ちないのよ」


 私は汚れを調べる。

 床などは侍女の頑張りもあって綺麗な部分もあるけど、まだらだ。

 石材には目には見えない無数の孔がある。

 ブラシでは、その表面を擦るだけ。

 だから根元の汚れが落ちない。

 そして酷いのが入隅や幅木。

 床と壁の繋ぎ目だね。

 ブラシが当てづらいのもあり、苔がこびりついている。


「アグネス様。ここの汚れが落ちないと、みんながクビになるのですか?」

「……そこまでいくかは、わからないわ。でも私は降格間違いなしね。この子たちも、減給は免れないわ」

「では侍女とメイドを全員、ここに集結させてくれませんか」

「それは、なぜ?」

「伝えたいことが、あります」

 

 半分くらい嘘です。ごめんなさい。

 でも私も必死なのだ。

 現在の感謝ポイントは5200。

 明日のドレスすら買えるか怪しい。

 アレジオに借りを作るのだけは絶対に嫌だ。

 アグネスさんは、すぐにみんなをテラスに集合させてくれた。

 さすが王城。

 百人はいる。

 

 高圧洗浄機R 400(1分)


 広いので10分、レンタルした。

 水圧力は110barを超える。

 本体は立体型で、車輪がついているため、地面を引いて移動できる。

 上部から伸びる高圧ホースを私は握る。

 ポータブル電源にコンセントを繋ぐ。

 タライの溜め水に給水ホースを入れて準備オーケー。


「リナリー・フォルジア。みなさんの給料を、お守りいたします!!」


 ブシャアアアアア————

 手元に伝わる強烈な反動。

 ミストみたいな水しぶきが舞って、小さな虹が架かった。

 床を汚していたものが落ちていき、本来の白が顔を覗かせる。

 

「見て、汚れが落ちていくわ!?」

「すごぉぉぉい!? なんなのその道具!?」

 

 入り隅の汚れも、水を細くしてしっかりと落とし切る。

 驚愕する侍女たちに見守られながら、私は作業を終えた。

 私は額に薄ら滲む汗を、袖で拭う。


「みなさんの給料、守られましたか?」

「「「守られましたっ——!」」」


 侍女が大合唱する。


 チャリーン♪ 

 感謝 600P

 チャリーン♪ 

 感謝 400P

 チャリーン♪ 

 感謝 300P

 チャリーン♪ 

 感謝 500P


 感謝アラームが止まりません!

 下は200P、上は700P。

 一つ一つは小さめだけど、なにせ百人以上いる。 

 合計で……47300P。

 狙いは大成功だね!


「さすがね! 感謝するわ!」


 アグネスさんが、全力ダッシュからのハグをしてくる。


 チャリーン♪ 

 感謝 1100P

 

 おお、一番多い。

 やっぱり進退がかかってたもんね。


「……でもリナリー、これはなに?」

「ええと、これは日本国で購入したものです」

「すごいのが売ってる国があるのね……」

「私の母国……じゃなくて、祖先と関係のある国で」

 

 あぶない。

 うっかり漏らすところだった。

 ここで侍女の一人が、アグネスさんに提案する。


「アグネス様、あの件もリナリーにお願いしてみてはいかがですか?」

 

 あの件?

 アグネスさんが熱い眼差しを向けてくる。


「あなたなら、きっとできるわ。ついてきて!」


 みんなで、食器庫に移動する。

 燭台や銀食器などが保管されている場所だ。

 室内には大きな台があり、その上に大量のスプーンが置かれていた。


「建国祭では多くのお客様がいらっしゃるの。だから普段は使わない物も出したのだけど……」

「……だいぶ黒ずんでますね」

 

 銀の食器が黒くなる。

 日本でもよくある現象だ。

 放置していた銀は、空気中の硫黄成分と反応して表面に黒い膜をまとう。


「あたしたち、ずっと磨いてるんだけど中々落ちなくて」

「しかも、まだ五百本くらいあるし……。なんとかならない?」


 侍女が切実な顔で私に訴えてくる。

 布で磨き続ける……辛いよね。


「落とせますよ。桶とお湯を別々に準備してください」


 希望があるの!? とみんなの顔色が明るくなる。

 準備の間、足りないものを購入する。


 重曹(1000g) 600P

 業務用アルミホイル(45cm×30m) 1200P


 届いた桶の底に、アルミホイルを敷く。

 そこに約10Lのお湯を入れる。

 さらに100gの重曹を溶かす。

 

「リナリー、それは塩?」

「これは重曹と言います。けど塩でもいけまよ」

 

 アグネスさんの疑問に答えつつ、スプーンを五十本ほど桶に投入。


「底に敷いた銀色のものにスプーンを接触させるのが大事です。黒ずみが、そちらに移ります」

 

 十分ほど経過したので、取り出して水で洗う。

 最後に布で水気を拭き取る。

 さっきとは別物のスプーンの誕生だね。


「ねえ見て!? ピカピカよ!」

「すっごーーい! 磨いてないのに、黒汚れが完全に落ちてる!?」

 

 侍女たちがキャーキャー騒ぐ。

 

「さっきの手順で、残りも仕上げましょう」

 

 手分けして作業する。

 三十分もしないうちに、五百本のスプーンが輝きを取り戻した。


「あなたって、清掃の魔術師ね!」


 侍女の一人が、私に二つ名を授けてくれた。

 もっとかっこいいのが良かった!


「リナリーのおかげで、今夜から磨く作業から解放されるのね……!」

「皆さん、リナリーにお礼を言いましょう」

「ありがとう!」


 チャリーン♪

 感謝 500P

  

 テラス掃除のときと同じくらい、感謝ポイントが入ってくる。 

 合計49300P。

 こっちの方が、感謝の度合いが高い。

 磨くの苦手な人が多かったのかな。


「うちで働いて欲しいわ。破格の待遇で雇うから、考えてみてね」

 

 アグネスさんの信頼は勝ち取れたみたい。

 この日は、十万リルもいただいた。

 フィロー様の言葉と、活躍を考慮したものらしい。

 普通は七、八時間で、1万リル貰えるかどうか。

 まさに破格。

 しかもポイントが美味しすぎた!


 残高 97100P

 

 お掃除サイコーッ!


 ☆

 

 コツコツ、と硬質な靴の音が廊下に響く。

 深い色合いのドレスを纏った王妃だ。

 少し遅れて、専属の侍女たちが後を追う。

 

「もう建国祭まで、あと数日よ……。まだ掃除や食器磨きも終わらないなんて」

 

 建国祭は失敗が許されない。

 普段は温厚な王妃も、少し神経質になっている。


「今日中に終わらせないと、明日からの進行に支障が出るのよね?」

「はい。間違いなく」

 

 王妃は険しい顔で、食器庫のドアを開けた。


「アグネス、どこにいるの!」

「王妃殿下……! いかがなさいました?」

 

 中にいたアグネスが、すぐに対応する。

 

「まだ食器も揃わず、テラスも汚いままだと聞きました。宴の客人方に、真っ黒なスプーンを出せというの?」

「先ほど、すべての作業が完了しました」

「それでは間に合わない! そう言っている…………いま、なんて?」

「こちらをご覧ください」

 

 言葉より物で証明する。

 アグネスは、台に置いてある銀のスプーンを一つ取って王妃に渡す。

 それをチェックした彼女は、目が点になる。


「何百本もあったはずよ。すべて、こんなに綺麗に?」

「はい。一本残らず、汚れを落としました」

 

 絶句する王妃に、アグネスは言う。


「テラスに参りましょう。ご確認いただきたいのです」

 

 王妃はアグネスと一緒に、生まれ変わったテラスに向かう。

 

「……すッ。すごいわ! 完全に綺麗になっているわね!」

「隙間の黒汚れや苔も、完璧に落ちております」

「さすがね、アグネス。侍女頭なだけはあるわ」

 

 褒められたアグネスは頭を下げる。

 だが、すぐに首を小さく振り、口を開く。


「実を申しますと、私の力ではありません。優秀な侍女が、ほとんど一人で解決してしまったのです」

「ひ、一人で……!?」

「特殊なタイプの子でして。知識や扱う道具が、常識外れなのです」

「その子をすぐに連れてきて!」

「それが……もう帰りました。バイトの子で、次はニホンの物を売りさばくとかで……」

「ニホン?」

「遠く異国の地のようです。彼女の知識はそこに由来しています」

 

 とはいえ、一人で物事を解決するなど規格外だ。

 王妃は信じられない気持ちになるが、アグネスが嘘をつく人物でないのは深く理解している。

 

「では、彼女にこれを届けて」

 

 王妃は、王家の紋章が入ったハンカチをアグネスに渡す。


「困ったときは頼りなさい。王家はあなたのような働き者を守りますと伝えて」

「畏まりました」


 その後、王妃はテラスを隅々までチェックした。

 調べるほど、どこの誰かも知らない侍女の働きに感動していくのだった。


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― 新着の感想 ―
重曹使うのはやったけどアルミホイル敷くのは知らなかった!なるほどなぁ〜アルミホイルの方がイオンの食いつきがいいんだろうなぁ……
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