会議に出席
「本当に違うのです! イザヨイ殿は、カルゼオンの危機を救ってくださった大恩人であり、その圧倒的な魔法の才を見込まれて同行いただいた方であって、決してそのような……ッ!」
アンドリューが真っ赤な顔で弁明を続けていると、屋敷の奥から一人の領兵が小走りで近づいてきた。
「失礼いたします、アンドリュー様。当家の主、アルドリック様が、別室にて作戦会議を開かれております。ヴェルリス家からの増援の将として、至急ご出席いただきたいとのことです」
「……あ、ああ。分かった、すぐに向かおう」
アンドリューは、母と妹の追及から逃れられたことに心の底から安堵したような表情を浮かべ、大きく息を吐き出した。
「そういうわけですので、母上、エレノア。私はこれより会議へ向かいます。お二人はここで安静にしていてください。……イザヨイ殿」
「はい?」
「貴女も、共に作戦会議へ参加していただけないだろうか?」
「えっ? 私がですか?」
イザヨイは小首を傾げた。
ただの冒険者(しかも表向きはEランクの新人)が、領主クラスの集まる軍議に参加するなど、通常ではありえないことだ。
「なぜ私なんですか? 防衛の指示なら、騎士団の副団長であるアンドリュー様がいれば十分じゃ……」
「いいえ。貴女のような、規格外の力と戦術的直感を持つ者の意見が、今のテアトラムには必要なのです。……それに、これからの動きに、貴女の魔法は不可欠となるでしょうから」
アンドリューの真剣な言葉に、イザヨイは軽く頷いた。
(情報収集のためにも会議に出とくのは悪くないか)
「分かりました。お供します」
イザヨイはセレーネとエレノアに上品にお辞儀をし、領兵の案内に従ってアンドリューの後に続いた。
背後から、
「お兄様、会議が終わったら、ゆっくり馴れ初めを聞かせてくださいね!」
という、エレノアの甲高い声が聞こえた気がしたが、アンドリューは聞こえないフリをして歩調を速めた。
屋敷のさらに奥、警備の厳重な重厚な扉を開け、広い会議室へと足を踏み入れる。
室内には、巨大なテアトラム周辺の地図が広げられたテーブルを囲み、鎧を着た数人の武官や騎士たちが集まっていた。
そしてその上座には、上質なベルベットのコートを着た、神経質そうな細面の壮年男性が立っている。
彼がこの屋敷の主である『アルドリック・ブレイブフォード』だろう。
「おお、アンドリュー殿! よくぞ来てくだすった! カルゼオンの精鋭が到着したと聞き、どれほど安堵したことか!」
アルドリックが顔を輝かせて迎える。
だが、その言葉は途中でピタリと止まり、彼の視線はアンドリューの背後に現れたイザヨイへと完全に釘付けになった。
「なっ……」
「……おお……」
室内にいた武官たちも、一斉に息を呑み、どよめきが起きた。
無理もない。
血生臭い男たちの作戦会議室に、まるで舞踏会から抜け出してきたような、王女殿下もかくやという豪華絢爛な『星屑の聖衣』を身に纏った、絶世の銀髪美少女が突然現れたのだ。
しかも、その胸元はコルセットで暴力的なまでに強調されており、男であれば視線のやり場に困るほどの威力を放っている。
「ア、アンドリュー殿……。こちらの、高貴なるお方は、もしや王都から視察に来られた王族の……?」
アルドリックが恐る恐る、額の汗を拭いながら尋ねる。
「いえ、違います、アルドリック殿」
アンドリューは居住まいを正し、堂々とした声で室内の全員に聞こえるように宣言した。
「こちらはイザヨイ殿。カルゼオンにて、Aランクのグリフォンと、ワイバーンの群れを単独で討ち果たした、最高峰の実力を持つ『冒険者』です」
「「「ぼ、冒険者だと……!?」」」
会議室に二度目のどよめきが走った。
「あの華奢で美しい少女が……」
「Aランク魔獣を単独討伐……?」
信じられないという顔をする武官たちに対し、アンドリューは一歩前へ出た。
「アルドリック殿。このイザヨイ殿の力は、私がこの目で確かに証明しております。これからの防衛計画において、彼女の圧倒的な大魔法と、戦術的な直感は必ずや我々の助けとなるはずです。……彼女も、この作戦会議に同席させることを許可していただきたい」
アルドリックは疑わしげな視線をイザヨイに向けたが、王都の騎士団副団長であり、ヴェルリス家の嫡男であるアンドリューがそこまで断言するのを無下にはできない。
「そ、そこまでアンドリュー殿がおっしゃるのであれば……。分かりました、イザヨイ殿の同席を許可いたしましょう。どうぞ、こちらへ」
「失礼します」
イザヨイは軽く会釈をし、アンドリューの隣、テーブルの端へと歩み寄った。
(よしよし、無事に作戦会議に参加できたぞ。さあ、どんな厄介なボス戦が待ってるか、情報を洗いざらい教えてもらおうか)
中身は完全な効率厨ゲーマーが、美少女の皮を被ったまま、厳しい顔つきの武官たちの中で一人、ワクワクと瞳を輝かせるのだった。




