門番とのやり取り
夜の静寂が降り始めたテアトラムの東区。
イザヨイと騎士は、小高い丘の上に建つ立派な屋敷の前に到着した。
高い鉄格子が嵌められた門の前には、重厚な鎧を着たテアトラムの領兵が二人、鋭い視線を光らせて立ち塞がっている。
「止まれ。ここは領主代行、ブレイブフォード家のお屋敷である。何用か」
兵士の一人が槍を交差させ、低い声で制止した。
イザヨイは少し前に出て、なるべく礼儀正しく微笑んだ。
「あ、すみません。私、カルゼオンからの増援で参りました冒険者のイザヨイと申します。アンドリュー様……ヴェルリス家の副団長が、こちらに向かわれたと聞いて後を追ってきたのですが、中に入れていただけませんか?」
領兵の一人が、イザヨイの放つ『星屑の聖衣』の豪華な威圧感に一瞬怯みながらも、職務に忠実に制止の声を上げた。
「冒険者? 確かに美しいお嬢さんだが、この非常時に身元の不確かな者を屋敷に入れるわけにはいかん。お引き取り願おう」
「そうだな。いくら増援と名乗ろうが、こんな派手なドレスで現れる冒険者がいるものか」
(……ですよねー)
イザヨイは内心で苦笑し、困ったように肩をすくめた。
門番の対応としては百点満点だ。
非常時に、得体の知れない(しかも無駄に豪華なドレスを着ている)美少女をホイホイと招き入れるようでは、警備のザルさを疑ってしまう。
イザヨイがどうやって説得しようかと思案していると、横にいたカルゼオンの騎士が一歩前に出た。
「無礼であろう。私はマクミラン・ヴェルリス卿が直属、カルゼオン騎士団の者である。そして、こちらのイザヨイ殿は、我が領主の賓客にして、今回のテアトラム防衛のための最大の切り札であるぞ。通していただきたい」
騎士が堂々と名乗りを上げ、胸の紋章を示す。
その白銀の鎧とヴェルリス家の家紋を見た兵士たちは、明らかに顔色を変えて戸惑い始めた。
「ヴェ、ヴェルリス家の騎士殿か……。しかし、我々も代行様から『誰であれ容易に通すな』と厳命を受けており……」
「確認を取るまで、少々お待ちいただきたい……!」
兵士たちが互いに顔を見合わせ、どう対応すべきか迷っていた、その時だった。
「――通せ! その方たちは、私の連れだ!」
屋敷の奥から、急ぎ足で駆け寄ってくる足音が響き、聞き慣れた声が門の向こうから飛んできた。
「アンドリュー様!」
イザヨイがパッと顔を輝かせる。
門の奥から現れたのは、少し息を切らせた金髪の若き天才騎士、アンドリューだった。
彼は屋敷の二階の窓から門の前で止められているイザヨイの姿を偶然見つけ、急いで下りてきたらしい。
「ア、アンドリュー様! これは失礼いたしました!」
兵士たちは王都の副団長にして、カルゼオン領主の嫡男である彼をもちろん認知しており、慌てて槍を引き、鉄格子の門を開け放った。
「すまない、イザヨイ殿。私が先行しすぎたばかりに、不快な思いをさせてしまった」
アンドリューは門をくぐってきたイザヨイに、申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえいえ、門番さんの仕事ですから気にしないでください。……それより、お母さんと妹さんは?」
「ええ。先程、無事に再会することができました」
アンドリューの顔には、カルゼオンを出立して以来の深い焦燥感が消え、心底安堵したような、柔らかな色が浮かんでいた。
「母とエレノアは、この屋敷の主……テアトラムの領主代行である『アルドリック・ブレイブフォード』殿の庇護の下、怪我一つなく安全に匿われておりました。アルドリック殿には感謝してもしきれません」
「よかったです!」
「イザヨイ殿も、わざわざ私を追ってきてくださり、ありがとうございます。……さあ、中へ。母とエレノア、そしてアルドリック殿も、カルゼオンからの増援を心待ちにしておられます」
アンドリューのエスコートを受け、イザヨイと騎士はブレイブフォード家の広大な屋敷の中へと足を踏み入れた。
煌びやかなシャンデリアが照らす広いエントランスを抜け、豪華な絨毯が敷かれた廊下を進んでいった。




