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予期せぬパーティ結成

「こいつらが俺のパーティメンバーだ。紹介するぜ」


 ボルグが太い腕で指し示したテーブルには、二人の先客が待っていた。

 一人は清涼感のある青い法衣に身を包み、先端に水色の宝石を埋め込んだ杖を傍らに置いた女性。

 もう一人は、少し猫背気味で、背中に使い込まれた長弓を背負った、地味な印象の青年だ。


「あら、ボルグ。随分と可愛らしいお嬢さんを連れてきたのね。ナンパでもしてきたの?」

「バッ……ちげぇよ! 人聞きに悪いこと言うな、シエル! こいつは新人のイザヨイだ。訳あって金がねぇらしくてな、俺たちでオーク狩りに連れていくことにしたんだよ」

「ふふ、冗談よ。初めまして。私はシエル。このパーティで回復役と支援魔法を担当しています。よろしくね、イザヨイちゃん」


 シエルと名乗った僧侶風の女性は、柔和な笑みを浮かべてイザヨイに手を差し出した。

 蜂蜜色の髪を後ろで緩く束ね、慈愛に満ちた瞳で見つめてくる様子は、まさにパーティの良心といった雰囲気だ。

 イザヨイは慌ててその手を握り返す。


「初めまして、イザヨイです。足手まといにならないように頑張りますので、よろしくお願いします」

「うんうん、いい子ねぇ。……で、そっちの陰気なのが弓使いのクローザー。口数は少ないけど、腕は確かだから安心して」

「……陰気は余計だろ、シエル」


 クローザーと呼ばれた弓使いの青年が、ボソリと抗議の声を上げた。

 前髪が長く目が隠れがちだが、その隙間から覗く瞳は理知的で、周囲の状況を冷静に観察しているように見える。


「クローザーだ。……よろしく」

「はい、よろしくお願いします、クローザーさん」


 イザヨイがペコリと頭を下げると、クローザーは少し照れたように視線を逸らし、頬をポリポリとかいた。

 美少女に見つめられる免疫がないらしい。

 その様子を見て、ボルグが豪快に笑い飛ばす。


「ガハハ! クローザーの野郎、顔が赤くなってやがる! ま、無理もねぇか。こんな別嬪さんが仲間になるなんて、俺たちのパーティ始まって以来の快挙だからな!」

「う、うるさいぞボルグ。……それより、イザヨイ」

「はい?」

「……その格好、本気か?」


 クローザーの視線が、イザヨイのひらひらとしたスカートと、大きく開いた胸元を行ったり来たりする。

 そこに込められているのは下心ではなく、純粋な疑問と懸念だった。

 シエルもまた、心配そうに眉を寄せて口を開く。


「そうね……私も気になってたの。イザヨイちゃん、その服、とっても可愛いし似合ってるんだけど……冒険に行く格好じゃないわよね?」

「えっ、そうですか? 動きやすいですよ?」

「動きやすいとか以前に、防御力が心配だわ。それに、そんな綺麗なレースやフリル、森に入ったらすぐに木の枝に引っかかってボロボロになっちゃうわよ? 泥だらけになるし、虫にも刺されるし……」

「確かに……。それに目立ちすぎる。オークは光り物や派手な色を好む習性がある。そんな格好で森に入れば、自ら標的になりに行くようなものだ」


 二人の指摘はもっともだった。

 イザヨイの装備は、ゲーム内では『星屑の聖衣』と呼ばれるレア装備であり、魔法防御力に至ってはトップクラスの性能を誇る。

 汚れ防止や自動修復のエンチャントも付与されているため、泥水に浸かろうが茨の中を突き進もうが、常に新品同様の輝きを保つ優れものだ。

 だが、この世界の住人であるシエルやクローザーには、単なる「露出度の高いお洒落着」にしか見えないのだろう。


(……だよなぁ。ゲームじゃ可愛さと性能の両立は正義だったけど、リアル視点だと完全に痛いコスプレイヤーだよな、これ)


『エターナルクレイドル』の世界では、見た目装備とステータス装備は別枠で設定できたし、そもそも防御力など魔法で幾らでも強化できた。

 可愛い服を着てドラゴンと殴り合うのは、高ランクプレイヤーの特権であり、一種のステータスですらあったのだ。


(可愛い装備で無双するのがジャスティスだと思ってたけど、ここではただの痛い子扱いか……!)


 イザヨイは内心で頭を抱えた。

 可愛いアバターを作りたい一心で、露出と装飾マシマシのコーディネートを選んだかつての自分を恨む。

 現実世界でこんな格好をして街を歩く度胸など、中身の男には備わっていないはずだったが、美少女の皮を被っているせいで感覚が麻痺していたようだ。

 周囲からの視線が集まるのも無理はない。

 戦場にドレスで来るなど、自殺志願者か狂人のどちらかだと思われて当然だ。


(次は絶対に地味なローブを買おう)


 イザヨイは困ったように微笑み、苦しい言い訳を口にした。


「あはは……実はこれしか服を持っていなくて。着替えたくても、着替えがないんです」

「まあ……! そうなの? もしかして、本当に着の身着のまま飛び出してきちゃった感じ?」

「ええ、まあ……そんなところです。だから、この依頼でお金を稼いで、ちゃんとした装備を整えたいなって」


 嘘である。

 インベントリの中には伝説級の防具が山ほど入っている。

 けどそれを今ここで取り出せば、間違いなくギルド中が大騒ぎになるだろう。

 とりあえず『貧乏な新人冒険者』という設定で通すことにした。


「可哀想に……! わかったわ、お姉さんが全力でサポートしてあげる! イザヨイちゃんには指一本触れさせないから!」

「シエルの母性が暴走し始めてるな……。まあいい、とりあえず準備は必要だ。これから装備屋に行くぞ。消耗品の補充もしとかなきゃなんねぇしな」

「了解。矢の補充もしておきたい」

「はい、ついて行きます!」


 ボルグが席を立ち、それに続いて一行は冒険者ギルドを後にした。

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