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報酬の分け前

「お疲れ様でした、ボルグさん! そして皆様も!」


 カルゼオンの冒険者ギルドは、相変わらず喧騒に包まれていた。

 カウンターの前に立つ四人の姿――特に、真ん中にいる銀髪の美少女の存在感に、周囲の荒くれ者たちはチラチラと視線を向けている。

 受付嬢はパッと顔を輝かせ、ボルグたちがカウンターにドンッと置いた大きな麻袋に目を丸くした。


「それにしても、すごい量ですね……! 依頼は『オークの討伐』でしたが、まさか集落を一つ壊滅させてきたなんて」


 受付嬢が袋の口を開け、中に入っているオークの右耳――討伐証明部位――を数え始める。

 その手付きは手馴れているが、数が数だけに途中で何度も確認を挟んでいた。


「これだけで十体以上……。それに、これは……!」


 最後に袋の底から取り出されたのは、他のオークのものとは明らかにサイズが違い、黒光りする体毛が混ざった巨大な耳だった。

 受付嬢が息を呑み、目を見開く。


「オ、オークキングの討伐証明!? 信じられません……! ボルグさんたちBランクパーティでも、キングを相手にするのはかなり危険だったはずですよ!?」

「へへっ、驚いたか? だがな、受付嬢ちゃん。勘違いすんなよ」


 ボルグは鼻の下を擦りながら、ニヤリと笑って横に立つイザヨイの肩をポンと叩いた。

 イザヨイは一瞬、ビクッと肩を竦める。


「俺たちがやったんじゃねぇ。ここにいる新人のイザヨイが、魔法でドカンと一掃しちまったんだよ。キングごと、な」

「……え?」


 受付嬢の動きが止まる。

 そして、隣で控えめに微笑んでいる、華奢で可憐なイザヨイの姿と、カウンターの上の血生臭いオークキングの耳を交互に見比べた。


「あの、イザヨイ様が……ですか? 魔法で……?」

「冗談じゃないぜ。俺とクローザーなんて、指一本動かしてねぇ。な?」

「……ああ。俺たちは後方で突っ立って、ただ眺めていただけだ。信じられない魔力だった」


 クローザーが短く、しかし強い語気で同意する。

 シエルもまた、ウンウンと深く頷いた。


「本当よ! あの広範囲氷結魔法からの雷撃連鎖……! 高位の魔導士様だって、あんなのそうそう撃てないわ! 私たち、完全に足手まといになっちゃったもの」


 三人の言葉に嘘はない。

 それを裏付けるように、彼らの装備にはオークの返り血一つ付いていなかった。

 受付嬢は半信半疑ながらも、長年冒険者を見てきた経験から、彼らが虚勢を張っているわけではないと悟る。


「そ、そうですか……。イザヨイ様、登録したばかりでそれほどの実力をお持ちだったなんて……私が止めたのも杞憂でしたね」

「いえ、ご心配おかけしました。でも、本当に私一人じゃ無理だったんですよ」


 イザヨイは困ったように眉を下げた。


「周りの警戒をクローザーさんがしてくれて、いざという時の壁役としてボルグさんがいてくれて、シエルさんが回復の構えを取ってくれていたから……私は安心して魔法に集中できたんです。だから、全員の力です」


 その言葉に、三人の先輩冒険者はハッとしたように目を見開いた。


「いや、でもよイザヨイ。お前一人で充分だっただろ、アレ」

「そうです! そもそも、今回の討伐の成果はほぼ全部イザヨイちゃんの魔法じゃない!」

「それに、今回の依頼は本来、俺たちが見送ろうとしたキング討伐まで含まれている。……俺たちが受け取る権利はない」


 ボルグ、シエル、クローザーが口々に辞退を申し出る。

 そして、受付嬢から渡された依頼達成の報酬である、金貨二枚をそのままイザヨイの前に押し付けた。


「ほら、受け取れ。こいつはお前の実力で稼いだ金だ。遠慮はいらねぇ」

「服の代金なんて気にしなくていいのよ? あんなの安いものだし、何よりイザヨイちゃんが無事で帰ってきてくれただけで……」


 三人の誠実な態度に、イザヨイは胸が温かくなるのを感じた。

 ゲーム内のNPC達はただのステータスと台詞の塊でしかなかった彼らが、今はこうして血の通った仲間として気遣ってくれている。

 だからこそ、ここで自分だけが独り占めするわけにはいかなかった。


「……ダメです」


 イザヨイは毅然とした態度で、金貨を押し返した。


「あの服を買ってもらわなかったら、私はそもそも森にすら行けませんでした。それに、パーティを組んでくれたことへの感謝もあります。……これは四人で分けるべきです」

「イザヨイ……」

「それに、私、この世界の通貨の計算とかよく分からないんです。だから、皆さんで分けてください。それが一番嬉しいです」


 少し上目遣いで、純粋な笑顔を向ける。

 美少女による渾身の「お願い」である。

 中身が男のゲーマーであるイザヨイとしては、金よりも今後のコネクションと信頼関係の構築の方がよっぽど価値があるという打算もあったが、結果的に三人の心を完全に打ち抜いてしまった。


「……ううっ! なんてええ子なんや……!」


 ボルグが何故か変な訛りになりながら目頭を押さえる。


「ああもう、イザヨイちゃん! 今日から私の妹にしちゃおうかしら!」

「うわっ!」


 シエルがたまらずイザヨイを抱きしめる。

 イザヨイの豊かな胸が押し潰され、またもや違和感が走ったが、今は耐えるしかない。


「……お前の気持ち、確かに受け取った」


 クローザーは前髪の奥で、微かに目を潤ませているようだった。


「すみません、受付のお姉さん。この金貨二枚、銀貨に両替してもらえますか?」


 イザヨイの提案により、報酬の金貨二枚は銀貨二百枚へと両替された。

 ジャラジャラと鳴る硬貨の重みに、イザヨイはようやく『自分が稼いだ』という実感を抱く。


「一人五十枚ずつ、ですね。はい、どうぞ」


 ボルグ、シエル、クローザーの手に、それぞれ銀貨の入った小袋が渡される。

 彼らはそれを大切そうに握り締め、イザヨイへと深く頷いた。


「よし! ならこの銀貨で、今日は俺の奢りだ! 一番高い酒と肉を食おうぜ!」

「いいわね! イザヨイちゃんの歓迎会も兼ねてね!」

「……俺は酒は飲まんが、付き合う」


 喧騒に包まれたギルドの中で、四人の笑い声が弾ける。

 イザヨイは自分の腰のポーチに収まった五十枚の銀貨――自分の力で、この異世界で初めて手にした金――の重みを確かめた。

 装備の不満やおっぱいの邪魔さなど、考えるべきことは山積みだが。


(……ま、悪くない初日だったな)


 銀髪の美少女の皮を被った元ゲーマーは、仲間たちと共に夜のカルゼオンの街へと消えていく。

 その心の中には、次に倒すべき敵の姿と、どうやって胸を揺らさずに前衛で戦うかという深刻な課題が、入り混じっていた。

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