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オーク討伐⑥

 土煙が風に流され、視界が完全にクリアになる。

 先ほどまで十体以上のオークが屯し、巨大なオークキングがふんぞり返っていた集落は、今や見渡す限りの焼け野原と化していた。

 その中心に立つイザヨイは、ふぅと小さく息を吐いて右手を下ろした。


「…………すげぇ」


 最初に口を開いたのはボルグだった。斧を地面に突き刺したまま、呆然とイザヨイを見つめていた。

 次いでシエルが、信じられないものを見るような目で呟く。


「うそでしょ……。あの大群を、たった一人で……しかも無傷で!? ダイヤモンドダストにチェーンライトニング……あんな高位魔法を無詠唱で、しかも連発するなんて……!」

「……信じられん。これがEランクだと?」


 背後の茂みから、ボルグ、シエル、クローザーの三人が飛び出してきた。

 彼らの顔には、驚愕と畏怖、そして手放しの称賛が張り付いている。

 無理もない。Bランクパーティである彼らでさえ死を覚悟する相手を、新米の美少女が一瞬にして塵に変えてしまったのだから。


「イザヨイ! お前、とんでもねぇ魔法使いだな!? あの広範囲魔法からの雷撃コンボ、BランクどころかAランクの魔導士でもあんなに早くは撃てねぇぞ!」


 ボルグが興奮気味に駆け寄り、イザヨイの肩を掴んでガクガクと揺らす。

 その勢いで、イザヨイの胸元が再び大きく揺さぶられた。


「あわわっ、ちょっとボルグさん、揺さぶらないで……っ!」

「こ、こらボルグ! イザヨイちゃんが困ってるじゃない! それにしてもイザヨイちゃん、本当に凄かったわ! 私、感動して鳥肌が立っちゃった!」


 シエルがボルグを引き剥がし、目をキラキラさせながらイザヨイの手を両手で握り締める。

 クローザーもまた、少し離れた位置から深い溜息と共に頷いた。


「ああ。あの詠唱速度と威力、完全に常軌を逸している。……俺たちの援護など、全く必要なかったな」

「いやいや、そんなことないですよ。皆さんが周りを警戒してくれていたから、私は魔法に集中できたんです」


 イザヨイは謙遜して微笑んでみせる。

 三人の先輩冒険者から手放しで褒められるのは、ゲーマーとしても、一人の人間としても悪い気はしない。

 だが、その笑顔の裏側で、イザヨイの内心には重苦しい不満が渦巻いていた。


(……魔法で倒せたのはいいけどさ。本当は、ネメシスソードでキングと斬り合いたかったんだよなぁ)


 イザヨイの視線が、無意識に自分の胸元へと落ちる。

 コルセットで締め付けられてなお、その存在感を誇示する圧倒的な質量。


(ステータス的には殴ったほうが早いし強いんだよな……。魔法だとMP消費するし、クールタイムもあるし)


 レベル200のカンストステータスを誇るイザヨイにとって、実は魔法よりも物理攻撃のほうが遥かに高火力なのだ。

 敏捷性極振りのステップで敵の攻撃を躱し、愛剣で弱点を正確に切り刻む。

 それが、ゲーム時代から慣れ親しんだ最も得意とする戦闘スタイルだった。


(ゲームじゃあ、あんなデカいボス相手にインファイトを仕掛けるのが最高に楽しかったのに……)


 だが、今の身体ではそれができない。

 オーク一体を斬り捨てただけで、あの暴虐極まりない揺れに悩まされたのだ。

 キングの猛攻を掻い潜りながら激しく動き回れば、胸の重みでバランスを崩すか、最悪の場合、服がはち切れて大惨事になりかねない。


(おっぱいが……おっぱいのせいで、俺は自由を奪われてるんだ……!)


 強すぎる自らの肉体(の特定部位)に対する理不尽な怒り。

 本来のポテンシャルを封印し、棒立ちで魔法を撃つだけの固定砲台にならざるを得ない現状。

 それは、アクションゲーマーにとって最大の屈辱とも言えた。


「どうしたの、イザヨイちゃん? そんな難しい顔をして。どこか痛む?」


 シエルが心配そうに覗き込んでくる。

 その純粋な気遣いに、イザヨイはハッと我に返った。


「あ、いえ! なんでもないです。ただ、魔法を使いすぎて少し魔力酔いしたみたいで」

「あら、それは大変! 無理させちゃったわね。さあ、ボルグ、早く街に戻りましょう。ギルドへの報告もあるし」

「ええ、そうね! イザヨイちゃんの歓迎会もしなくちゃ!」

「……俺も賛成だ。奢るぞ」


 三人が意気揚々と帰路の準備を始める。

 その背中を見つめながら、イザヨイは密かに拳を握り締めた。


(今は仕方ない。でも、絶対になんとかしてやる)


 この異世界には、多種多様な魔法やアイテムが存在するはずだ。

 おっぱい重量を軽減する魔法、あるいは胸を極限まで平らに固定できる特殊な防具があるかもしれない。


(いつか必ず、このおっぱい問題の解決策を見つけて、最前線で剣を振り回してやる……!)


 銀髪の美少女は、己の胸に秘めた野望(と重み)を噛み締めながら、カルゼオンの街へと続く道を歩き出した。

 彼女の本当の戦いは、オークキングの討伐などではなく、この『揺れる双丘』との終わりのない闘争なのかもしれない。

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