オーク討伐⑤
森の奥深く開けた空間に、粗末な小屋と焚き火の煙が立ち上るオークの集落が見えてきた。
周囲には、豚の顔をした巨漢たちが十体ほど屯している。
その中心に鎮座するのは、他のオークよりも一回り以上大きく、全身に黒光りする甲冑を纏った『オークキング』だ。
オークキングは偉そうに粗末な椅子にふんぞり返り、部下が献上した巨大な骨付き肉を齧っていた。
(……へぇ、いいポジション取りしてるじゃないか。これなら、まとめて一網打尽にできる)
茂みに身を潜めたイザヨイは、口元に不敵な笑みを浮かべる。
後衛職として魔法に専念するという選択は、結果的に正解だったかもしれない。
おっぱいが揺れることもなく、冷静に戦況を見極め、最大の火力を叩き込むことができるのだから。
「ふぅ……。行くよ」
イザヨイは右手を掲げ、静かに魔力を練り上げる。
銀髪がふわりと浮かび上がり、周囲の大気が震え出す。
その変化に、鋭い感覚を持つオークキングが気付いたように顔を上げた。
「ブモッ!?」
「遅い!」
イザヨイが鋭い喝破と共に、指先をオークの集団へと向けた。
次の瞬間、世界が凍てつく。
「凍てつけ、極寒の棺! 『ダイヤモンドダスト』!」
イザヨイの詠唱と共に、空気が白く染まり、無数の氷の礫が嵐となってオークたちに襲い掛かる。
気温が一気に氷点下まで下がり、木々すらも真っ白に凍り付く。
食事を楽しんでいたオークたちは、悲鳴を上げる間もなく、その巨体を氷像へと変えられた。
「グォォォッ……!」
辛うじて反応できたのはオークキングのみ。
だが、その体表もみるみるうちに霜に覆われ、身動きが取れなくなっていく。
これが、広範囲の敵にダメージを与えつつ凍結させる高位氷結魔法『ダイヤモンドダスト』の威力だ。
「よし、足止め完了。次は……!」
イザヨイは間髪入れずに左手を掲げる。
今度はバチバチという激しい放電音が森に響き渡る。
凍結した敵に対し、電撃属性の攻撃を加えることでダメージ倍率を跳ね上げる。
これぞ『エターナルクレイドル』における対集団戦の定石、通称『氷雷コンボ』だ。
「連鎖せよ、紫電の咆哮! 『チェーンライトニング』!」
イザヨイの指先から、眩いほどの閃光が迸った。
それは一筋の雷撃となり、最初に狙ったオークキングへと直撃する。
カッ!
轟音と共に、オークキングの全身を激痛が駆け巡る。
だが、それだけでは終わらない。
雷撃は生き物のように跳ね回り、近くにいた氷像状態のオークたちへと次々に伝播していく。
「ギャアアアッ!」
「ブモォォォッ!」
断末魔の叫びが連鎖し、凍結していたオークたちが次々と粉砕されていく。
氷と雷の二重苦に耐えられるはずもなく、通常のオークたちは一瞬で黒い粒子となって霧散した。
「……さすがキング。まだ生きてるか」
砂埃が晴れた後、唯一立っていたのはオークキングだった。
全身から黒煙を上げ、片膝をつきながらも、憎悪に満ちた目でイザヨイを睨みつけている。
流石はボスクラス。しぶとい。
「グルルルァァァッ!!」
オークキングが最後の力を振り絞り、咆哮と共に立ち上がろうとする。
だがイザヨイは涼しい顔で最後の仕上げにかかっていた。
頭上に眩い光が集束し、一本の巨大な雷の槍が形成される。
「終わりだよ。……貫け、『ライトニングスピア』!」
イザヨイが右手を振り下ろす。
同時に、雷槍が一直線に放たれた。
それは文字通り、光の速さでオークキングの脳天を直撃する。
ズドォォォォンッ!!
轟音と共に地面が揺れ、土煙が高く舞い上がった。
オークキングの巨体が弾け飛ぶ。
断末魔すら上げる暇もなく、黒い塵となって森の露と消えた。
「……ふぅ。やれやれ、これでおしまい」
イザヨイはスカートの埃を払い、何事もなかったかのように呟く。
圧倒的な火力による殲滅。
所要時間、わずか数十秒。
おっぱいが揺れる暇もなかった。
静寂が戻った森の中で、銀髪の少女だけが一人、涼やかな風に吹かれていた。




