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オーク討伐①

 カルゼオンの街を背に、西へと続く道を進む。

 先頭を行くボルグの背中はいかにも頼もしく、その横に並ぶシエルは周囲を警戒しながらも柔和な表情を崩さない。

 最後尾を守るのは、常に周囲に気を配るクローザーだ。

 そして中央に位置するのは、慣れない革鎧に身を包んだ銀髪の少女、イザヨイ。

 新しい装備は動きやすく、森の中を歩くのには最適だったが、一つだけ問題があった。


「……はぁ。二人とも。いい加減にしなさいよ」


 シエルが振り返り、ジロリとボルグとクローザーを睨みつける。

 二人の男はビクリと肩を震わせ、慌てて視線を空へと逸らした。

 彼らは道中、何度もイザヨイの方をチラチラと盗み見ていたのだ。


 無理もない。

 先ほどの着替え騒動で垣間見た、圧倒的なプロポーションと無防備な姿が脳裏に焼き付いているのだろう。

 美少女アバターの破壊力は、中身が男であるイザヨイの想像を遥かに超えていた。


「わ、悪ぃ……。ついな」

「……すまん。だが……あれは不可抗力だ」


 言い訳がましい二人に、シエルは深いため息をつく。

 イザヨイはといえば、気恥ずかしさと申し訳なさで小さくなっていた。

 自分の軽率な行動が招いた結果だ。

 自業自得とはいえ、仲間からの視線に耐えるのは精神的に来るものがある。


「あはは……ごめんなさい。私がもっと気を付ければよかったんですけど」

「イザヨイちゃんは悪くないわよ! 悪いのはデリカシーのない男どもなんだから!」


 シエルがフォローを入れてくれるが、それが逆に痛い。

 そんなやり取りを繰り返しながら進むこと数十分。

 鬱蒼とした木々が生い茂る森の入り口へと到着した。


「よし、ここからは慎重に行くぞ。クローザー、頼めるか?」


 ボルグの表情が引き締まり、戦士の顔つきへと変わる。

 クローザーもまた、先ほどまでの気まずさを払拭するように短く頷いた。


「了解。先行して様子を見てくる」


 クローザーは音もなく茂みへと消えていった。

 その身のこなしは軽く、足音一つ立てない。隠密スキルが高い証拠だ。

 イザヨイは感心しながらその後ろ姿を見送る。


(へぇ、なかなかやるな。弓使いにしては動きがいい)


 ゲーム内での経験則と照らし合わせながら、仲間の実力を分析する。

 数分後、再び姿を現したクローザーが手信号を送ってきた。

 敵発見の合図だ。

 三人は静かに駆け寄り、茂みの陰から様子を窺う。


「あっちだ。群れからはぐれたオークが一体いる」


 クローザーが指差す先、木々の切れ間に広がる小さな広場に、その魔物はいた。

 豚の顔をした巨漢。粗末な棍棒を手に持ち、ブヒブヒと鼻を鳴らしがら地面を掘り返している。

 身長は二メートルを超え、筋肉の鎧を纏ったその姿は、初心者冒険者にとっては絶望の象徴だろう。


「あそこか。まずはあいつを片付けて、数を減らすぞ」


 ボルグが背中の大斧に手をかけ、低い姿勢で飛び出す準備をする。

 一撃で仕留めるつもりだ。

 だが、その肩を華奢な手が制止した。


「待ってください」

「ん? どうしたイザヨイ」

「あいつ、私にやらせてもらえませんか?」


 イザヨイの言葉に、その場にいた全員が目を剥いた。

 正気か? という視線が一斉に突き刺さる。


「おいおい、冗談だろ? 相手はオークだぞ? ゴブリンとはわけが違うんだ」

「そうよイザヨイちゃん! あなたが一人で挑むなんて無謀すぎるわ! もし近づかれたらひとたまりもないのよ!?」

「……悪いことは言わん。初陣で挑む相手じゃない」


 三人が口々に制止する。

 当然の反応だ。

 Eランクの新人が、ソロでオークに挑むなど自殺行為以外の何物でもない。

 ましてや、か弱い美少女がオークの前に立つなど、悲劇の始まりにしかならないと誰もが思うだろう。

 しかしイザヨイの瞳に揺らぎはなかった。


「大丈夫です。私、本当に自信があるんです。それに、自分の力を試しておきたいんです」


 この世界での実力、身体能力、そして実戦感覚。

 それらを確かめるには、格好の的だ。

 イザヨイは真っ直ぐにボルグを見つめた。

 その瞳の奥には、確固たる自信と、ゲーマーとしての静かな闘志が燃えている。


「……本気なんだな?」


 ボルグが唸るように問いかける。

 イザヨイは力強く頷いた。


「はい。お願いします」

「……わかった。だが、危なくなったらすぐに俺が割って入る。いいな?」

「約束します」


 渋々といった様子でボルグが下がる。

 シエルとクローザーも不安げな表情で見守る中、イザヨイはゆっくりと立ち上がった。

 右手を虚空にかざし、『ネメシスソード』を召喚する。

 漆黒の刀身が微かな光を帯びて現れると、空気が震えた。


「行くよ……!」

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