定時制高校の部活
近くの串かつ屋で、中山と柴田は飲んでいた。この店は、夫婦で経営している。主人は板前で、綺麗な奥さんの名前を使って、串かつ「美恵」という名前である。学校が二十一時半に終了すると中山は、ほとんど毎日この店に来る。もちろん一人で来ることも多いが、持ち前の人懐っこさですぐに初対面の人と仲良くなるのだ。
中山は、柴田の体験を聞く中で、トラブルが起こった場合、生徒は会社に居辛くなる場合が多い。その時生徒にいかに踏ん張らせるかが難しいという。
由香は四年生になっても神辺縫製で頑張っている。
中山が勤務している福山西商の勤務時間は12時45分~21時30分までで生徒は17時過ぎから登校する。その後支給される弁当を食べて18時から授業始まり。ほとんどの生徒は部活をしているので二十一時半に帰れない。中山は軟式野球部の顧問である。部員は9人揃わないので、試合の時は他の部から借りなければならない。それでも全国大会(神宮球場で行われるもうひとつの甲子園とも呼ばれている)に行くことを目標にしている。昨年全日制高校を中退して近くに住んでいる高山勲を入学させた。野球部に入部させてピッチャーさせてみると、コントロールが悪いけど球のスピードが速いので、毎晩練習をさせ練習試合では0点に抑えた。練習試合では、とにかく1点取れば勝てる試合が続き、広島県大会までに全部員にバットを短く持たせ球に当てることを徹底した。ほとんどが内野ゴロだが、たまに内野安打やエラーになることもある。地区大会を順調に勝ち、県大会に行くことができた。
県大会でも0点に抑えた高山の好投で初めて決勝に進出する事が出来たのである。決勝の相手校は優勝の常連で広島市内にある広泰寺高校に決まった。この学校は昨年も全国大会に進出している。あと一勝で念願の神宮球場。中山は部員を集めて
「明日はいよいよ最後の試合だ。今まで通りの作戦でいくから、球をよく見てボールを振らない。広泰寺はエラーが少ないので、思い切って一塁まで走れ。ただしいつも言っているようにヘッドスライディングはダメじゃからな。」
次の日、決勝戦では高山が以前通っていた全日制野球部の井手監督が来ていた。中山と井手は高校でよく顔を合わせているし、高山を入学させる時も相談している。素行が悪く喧嘩も多いが、野球は大好きで、授業は受けなくても部活は参加している。内野手だった高山をピッチャーとして使うことに大賛成だった。井手が来ていることで高山の様子がいつもと違っていた。コントロールが悪く、フォアボールも多い中で、6回までは0点に抑えた。ついに7回まで0対0のまま最後の7回に入った。この大会は7回で終了。同点の場合は決着がつくまでのルールになっている。7回の表、福山西商の攻撃でエラーと内野安打でノーアウト1塁2塁になったところでバントをさせ、スクイズで1点を取った。7回の裏、高山の様子は非常に緊張していた。コントロールが益々悪い。それでも2アウトを取った後連続フォアボールで満塁になってしまった。次の打者にボールを2つ続けたところで、中山はタイムを取りピッチャーとキャッチャーの北田をベンチ前に呼んだ。ベンチに他の部員が居れば伝令としてマウンドに行かせるのだが、9人しかいないのでタイムを2回まで取ることが許されている。
「高山!お前の球は走っている。ど真ん中に投げろ。最後は得意のナックルで三振を取れ。いいか?北田はナックルを後ろにそらさんように体で受け止めれよ。」
案の定打者は真ん中付近の球を2つ見逃した。最後のナックルボールを投げた時、打者がバットを振り三振かと思われたが、なんと北田が球を体で受け止めれず、後ろに逸らせてしまった。それだけではなく、慌てた北田はホームベースカバーに入った高山に暴投。広泰寺高校は2点取り逆転。その裏福山西商は元気がなく、負けてしまった。ベンチで号泣する部員たちは立ち上がれなかった。中山は部員たちの肩や背中を軽く叩きながら、試合終了の挨拶に行かせた。ベンチから引き上げる時、観戦していた井手監督がベンチ裏に来ていた。井手を見た高山は、思いっ切り抱き付き二人とも大声で泣いていた。井手は中山に、
「わしが来ない方がよかったかなぁ。」
「そんなことはないですよ。高山は昨晩から緊張して寝れんかったみたいやし。ありがとうございました。」
「やっぱり高校生やな。あの暴れん坊が・・・」
二人は泣きながら握手を交わし、
「中山先生、これからも高山の面倒をみてくれんさい。」
「串かつ美恵」で飲む約束をして別れた。
福山商業高校野球部が決勝戦まで行って惜しくも負けた話は地元でも話題になり、多くの生徒が勤務している神辺縫製も同様だった。小山労務管理者は、生徒たちに向かって、
「やはりダメじゃったか。高山じゃ無理。不良は所詮不良ということよ。」
小山の高山への侮辱発言は高校内に広まった。高山は怒り出して神辺縫製に行こうとした。中山は、
「高山!今行っても、会社は閉まっとる。言いたい奴には言わせておけ。損をするのはお前じゃけ。」
その場は収まったが、高山は翌日神辺縫製に行ってしまった。学校に電話がかかり、担任の佐野と一緒に会社に駆けつけた所、警官が二人来ていた。小山が呼んだのである。高山は暴力事件を起こしてはいなかったが、会社への無断侵入で福山北警察署へ連れていかれた。二人は小山に謝罪し発言の撤回を求めたところ、
「本当のことを言って何が悪いんじゃ。」中山は、
「決勝戦まで行ったことは素晴らしいことです。しかも相手は高校生ですよ。」担任の佐野も
「あいつは、真面目な高校生になろうと努力してるんです。学校行事の仕事も人一倍働いてるんです。」
小山は何事もなかったかのように、挨拶もせず会社の奥の部屋に入ってしまった。佐野が追いかけようとしたが、中山に止められ二人は学校に帰った。その後母親が警察署に呼ばれ、高山を連れて学校に来た。高山は未だ憤慨している様子で独り言を言っていた。
エピソード3に続く




