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分配された恋

割り当てられた熱

作者: あい

第一章:年齢引き下げとグラビアアイドル


2045年、制度は変わった。

「結婚出産義務法」――25歳以上が対象だった国家ペアリング制度は、成果の低下を理由に対象年齢が22歳以上へと改正された。


LOVEYOUのグラビア担当、**莉央(りお・22歳)**はその通知を撮影現場で受け取った。

「B88・W57・H86」の黄金比ボディと笑顔が売りの、“触れられない偶像”。


> 【通知】あなたの割当パートナーは「笹川航平ささがわこうへい

登録職業:無職(元建築作業員)。居住先:第十特別区Cブロック。




「……誰よ、それ」


撮影で着た極小ビキニのまま、莉央は呆然と通知画面を見つめた。



---


第二章:現役アイドルとヤレるってよ


初対面。

笹川航平――短髪、ピアス、煙草の匂い。一目でわかる、ヤンチャ上がり。


「マジで!? 本物のアイドルじゃん!えっ、写真よりエロくね?」


彼の第一声に、莉央は思わず足を止めた。


「……最低」


だが、制度は逃がさない。

2週間以内に同居開始、3ヶ月以内に妊娠届提出、という命令のもと、ふたりの生活が始まった。


莉央は心を閉ざし、個室に籠る。

航平はゲームと煙草ばかり。だがふとした瞬間、莉央を目で追っているのが分かる。


「いつまでそうやって清純ぶってんの? 制度だろ、仕方ねえじゃん」


それは正論だった。

だからこそ、莉央の心に深い傷を落とした。



---


第三章:拒絶の果てに、夜が来る


> 【警告】性交渉未履行。1ヶ月以内に実施されない場合、強制措置が取られる可能性があります。




国家の通知は冷酷だった。

「やらなきゃ、あたしが……壊される」


ある晩、莉央は風呂上がりのまま、リビングに降りた。

ガウンの裾を強く握りしめ、航平に視線を向ける。


「……今日、寝るの、どっちの部屋?」


「……え、マジで……?」


戸惑うような声。

でも、その目には明らかな熱があった。


「義務だから。……それだけ。触れるときは、優しくして」


その夜、莉央は処女を失った。

アイドルとして守り続けた身体は、制度によって“義務の対象”に変えられた。


涙は出なかった。

ただ、天井を見つめながら、彼女は何度も心の中で繰り返していた。


(私は壊れてない。これは“私のまま”で乗り越える)



---


第四章:命の鼓動と割り切れぬ距離


2ヶ月後、妊娠が判明。


「……できたって」


言葉は小さくても、その震えは止められなかった。


「マジか……俺、パパになるん?」


浮かれるような航平の声が、不思議と嫌じゃなかった。


ただ、莉央の中には“命”を“義務”として扱われたくないという想いが生まれていた。


「この子は、制度の産物じゃない。私が、産むって決めたんだよ」


撮影を辞め、グループを“体調不良”で脱退した莉央は、もうアイドルではなかった。

だが、次第に彼女の内側には、“一人の女としての声”が育ち始めていた。



---


第五章:再び、義務が迫る


出産後、莉央の身体が回復する間もなく、国家からの通知が届く。


> 【通達】第二子義務未履行。性交渉記録が途絶しています。6ヶ月以内に第二子妊娠が必要です。




「まだ……あたし、母親になったばっかりだよ……」


声が震える。涙がこぼれる。


「無理だって、航平……こんな身体で、心で、また“抱かれる”なんて……」


航平は黙って莉央のそばに座り、ポケットから煙草を取り出しかけて、やめた。


「……じゃあ、抱くんじゃなくて、“おれが預かる”。身体も気持ちも」


その言葉に、莉央は初めて“この男”と真正面から向き合えた気がした。


あの夜、再び抱かれた彼女の瞳には、もはや恐れではなく、「委ねる」強さが宿っていた。



---


最終章:私は選んだ、制度の中で


第二子の出産を終えた後、政府から一枚の書類が届いた。


> 【選択書】義務完了。以後の婚姻継続は任意です。




「……別れてもいいんだよ、あんたとは」


莉央は、かつてのように強がる声で言った。

航平は笑って言う。


「でも、あんた俺のこと、名前で呼ぶようになったじゃん」


「……バレた?」


「うん。だから、これからも一緒にいようぜ。今度は“俺らのルール”で」


莉央は静かに頷いた。


制度で始まった関係。

でも、今は確かに、自分で“選んだ家族”だった。



---


―完―


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