紙飛行機の原理
俺の後ろの席の女の子は、ほとんどいなかった。女の子の行動がどうも気になって仕方がなかった。なんせその子は体が弱いだとかで、時々学校に来る。友達もいないのか「ぼっち」で過ごす子だった。時々視界に入る彼女に、存在感ねぇなとか思っていた。その子は紙飛行機をよく折って1人で飛ばしていた。その子とは話すことはなく中学を卒業した。でも高校になって今度は俺が「ぼっち」になった。きっかけは学校で人気の先輩に告白して、振られたことがクラス中に広まったことだった。誰が広めたのか知りもしなかった。バカにされるわイジられるわいろいろしたけれど、結局皆俺に飽きたらしく離れていった。存在感ねぇのは、俺の方だった。その頃から休み時間はクラスにいるのが怖くなって1人で校舎内をぶらつくことが多くなった。天気のいい日は校庭の隅っこで日なたぼっこをした。そんな「ぼっち」の俺の隣にある日ふと誰か来た。それは中学の時のあの子だった。おんなじ高校ということも知らなかったから余計に驚いた。1人の俺を笑うわけでもバカにするわけでもなくただ隣に来て、紙飛行機を折り始めた。やがてそれを校庭に飛ばした。ものすごく遠くに飛んだ。それから彼女は口を開いた。「私ね、紙飛行機大好きなんだぁ。だって1人でも遊べるじゃん?でも不思議だよね。紙飛行機が遠くまで飛ぶと嬉しいけど、大切な人が遠くに行くと悲しい。」「これね、『紙飛行機の原理』っていうの。私が作ったんだよ」と彼女は初めて笑った。だれかに笑顔を向けられたのは久しぶりだった。正直に嬉しくて、その笑顔が忘れられなかった。「はやく飛ばしてよぉ」「はいはい」と俺は返事をする。あれから約15年。紙飛行機を遠くに飛ばしても、今は近くに帰ってくるようになった。「お父さん飛ばそ!!」小さい愛しい子が俺の飛ばした紙飛行機を持って走って来る。「私も作ったわよ」と彼女が紙飛行機を持ってこちらに歩いてくる。せーのっと3人並んで紙飛行機を大空に向かって飛ばす。やっぱり彼女の紙飛行機が1番遠くに飛ぶ。「お母さんすごい!!」とキラキラした目で遠くを見つめる子と、「でしょ」とあの笑顔を見せてくれる彼女を俺は少し離れたところで見ている。
「紙飛行機の原理」を教えてくれた彼女と、その間に授かった大切な子。世界一大切で尊くて守りたい彼女達のそばに俺は、遠くに飛んだ紙飛行機に反比例するように笑顔で歩いていった。