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 しばらく沈黙したあと、グルーはアーサーを睨みつけた。


「……いいのか」


 アーサーは眉を寄せる。

「なんです?」

「お前の国は資源に乏しく、貧しい。マルク王国の援助がなければすぐに立ち行かなくなるだろう」


 低く轟く雷のようなグルーの恐ろしい声に、アナスタシアはびくりと肩を揺らした。


 しかし、アーサーは平然とした様子で、さらりと返す。


「おや、今度は脅しですか」


 グルーも引かない。

「選べ。その女か、自国か」

 アーサーは迷うことなく、はっきりと言った。

「もちろん、アナスタシアをいただきます。もう二度と、彼女にこんな思いはさせない。そして、王国もしっかりと守る。どちらも幸せにする」

「……っ!」

 

 ふたりは一歩も引かずに睨み合った。しばらく沈黙が落ち、ホール内の時が止まったように錯覚する。


「ふっ……ふはははははっ!!」

 突然、グルーが乾いた笑い声を上げた。ホール中の視線がグルーに集まる。

 

「……そうか。ならば、すぐに後悔することになるだろう。国と国民を犠牲にし、その女とともに滅ぶがいい」


 そう吐き捨てると、グルーは鬼のように真っ赤な顔、血走った瞳でアナスタシアを睨みつけ、ホールから出ていく。アナスタシアは、グルーの後ろ姿を呆然と見つめていた。

 

 初めて会ったとき、なんて綺麗な人だろうと思ったその顔は、今やひどく歪んでいるように見えた。

 アナスタシアの目が悪くなったのか、それとも彼の心が人相に滲み出たのか。どちらにせよ、美しいとは到底思えない顔をしていた。


 グルーの姿が見えなくなると、アナスタシアはホッと息を吐いた。気付かないうちに息を止めていたらしい。


 気付いたアーサーがかたわらにひざまずく。


「大丈夫ですか?」

「はい……あの、アーサー様。本当にありがとうございました」

「いいや。間に合ってよかったよ。頬は? 腫れてるね。すぐに冷やそう。立てるかな?」


 アーサーは穏やかに微笑み、アナスタシアにそっと手を差し出す。アナスタシアがそろそろと手を出すと、アーサーはその手を取って強く引き寄せた。アナスタシアの小さな身体は、すっぽりとアーサーの胸の中に収まった。


「よく頑張ったね……。もう大丈夫だよ」


 アーサーがアナスタシアの耳元で、そっと囁く。その優しい響きに、アナスタシアは涙を流して頷いた。

 

「さて。行こうか、アナスタシア」

「……はい」


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