第九章 ボートハウスで謎解きを 2
「――どういうことなのミス・ディグビー」
鋭い声で咎めるように訊ねたのはヘンリエッタだった。
「ハロルドが――私の息子がカトルフォードでわざわざ模造品を作らせたというの?」
「ええ。――御子息はおそらく四年前の大学時代、何らかの理由で家には打ち明けられない大金が必要になったのでしょう。そのため、地琥珀よりもはるかに安価な琥珀を用いてこの模造品を作らせ、このウェステンアビー・ホールにお戻りになったとき、博物堂に飾られている本物とすり替えたのでしょう」
「――じゃ、つまり、博物堂に飾られていた首飾りは、四年前からずっと模造品だったってこと?」
「ええレディ・クリスティーン。おそらくはね」
「――では本物はどこに?」
「そこはまだ何とも。バラバラにされてしまったら、サックヴィル家の首飾りだと証明するのは、残念ながら難しいでしょうね」と、エレンは肩を竦めた。「ともあれ、そうして四年前、ノーズリー卿は首飾りを模造品とすり替え、本物を現金に換えました。連合王国内では地琥珀はかなり高価ですからね」
「国外ではそんなに高価ではないの?」と、クリスティーンが訪ねる。
「かなり安いですよ」と、ルテチア生まれのカミーユが答える。「アルビオンでは焔玉髄がいちばん安いですが、あれは大陸では高価ですね」
「産出量の差ですわ」と、エレンは言い添えた。「その価格差からの推測ですが、ノーズリー卿はおそらく、大学卒業後の大陸旅行のあいだに、あちらでは安価な地琥珀を買い集めて首飾りを作り直させるおつもりだったのではないかと思います」
「ああなるほど。それなのに、あの忌々しいコルレオン戦役のおかげで大旅行が不運にも無期限延期になってしまって、その前に婚約披露パーティーで首飾りをお披露目するはめに陥った――というわけだね?」と、エドガーがしたり顔で訊ねてくる。
得意満面の子供みたいな顔だ。
エレンは微笑ましく笑って頷いた。
「まさにその通りですわ。その上、さらに不運なことに、そのパーティーにはレディ・クリスティーンのクラレンス伯父様が――王室付き魔術師のスチュアード卿がご参加なさるのですもの!」
「偽物だってばれないはずはないわね!」と、クリスティーンが肩を竦める。「それでわざわざ密室事件をでっちあげて模造品の首飾りを池に投げ込んで、犯人不明で紛失って形でうやむやにしようとしたのね?」
「ええレディ。わたくしの予想が正しければ」
「そんなの正しいに決まっているわ!」
クリスティーンが怒りと全幅の信頼を滲ませた声で応じ、グーズベリー色の眸で婚約者を睨みつけた。「そういうことなんでしょハロルド? 観念しなさいよ」
「--君まで何を言いだすんだクリスティーン!」と、ハロルドが上ずった声で叫ぶ。「そのご婦人の推理とやらは全くあっていないよ! 大体僕は彼女より背が高いじゃないか! どうやったら甲冑のなかに隠れられるっていうんだ?」
「ええ、あなたは無理でしょうね」
エレンは答えながら視線をハロルドの背後へと向けた。
副執事のヤードの右隣に、ボートハウスの番人の老トビアスが立っている。
老人は小柄だった。
どう見てもエレンより背が低い。