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第一章 思いがけない招待状 2

 己の職務に忠実なマディソンは、訊ねられたことにだけ答えると、それ以上の雑談は交わさず、てきぱきと片づけを終えて部屋を出て行った。

 考えこみながら朝食を終えたエレンは、茶器をまとめて地階の台所へ戻してから、再び窓辺の居間スペースに戻って契約魔を呼び出すことにした。



 いつものように右の掌を広げて呼ぶ。

「サラ。出てきて頂戴。伝令を頼みたいの」



 途端、指が長く肉薄の掌の上から淡金色の微光の柱が立ち昇り、赤く小さく輝かしい小型のドラゴンみたいな生き物が顕現した。

 ルビーのように輝く赤い鱗とエメラルド色の眸。

 小さな一対の皮翼を備えた火蜥蜴(サラマンダー)である。


 火蜥蜴はエレンの掌の上でブルブルッと体を震わせて淡金色の光の粒子を振り払った。途端に赤い輝きが増し、焔のような熱気が揺らめきたった。


「おおエレン。今日はずいぶん寛いでおるようじゃな」


 部屋着にしているゆったりした白いコットンドレス姿でゆるい癖のあるストロベリーブロンドをほどいたままのエレンに目を向けて火蜥蜴が渋い男声で言う。エレンは極まり悪く笑った。

「朝なのよ。まだギリギリね。これから着替えるところ。セルカークまで伝言を頼みたいの。できればミセス・アドラーにね」

 頼りになる生家のハウスキーパーの名を告げると、火蜥蜴のサラはエメラルド色の目をキロッと動かした。

「お母上お父上には伝えにくいことかね?」

「そうね。あんまり伝えやすくはない……かも」

 エレンが口を濁すと、火蜥蜴はおもむろに皮翼を広げ、パタパタと羽ばたいて定位置であるエレンの右肩に停まりながら訊ねてきた。

「……何かこうロマンチックなことか?」

「いいえ全然全く!」

 エレンは眉を吊り上げて応え、火蜥蜴を肩に乗せたまま窓を全開にした。

「頼みたいのは本当にちょっとした伝言よ。大急ぎでセルカークまで飛んで、コーニーの士官候補生時代の制服があったら大至急送って欲しいと頼んでもらいたいの。仕事で急に必要になったからって」

「ほほう」と、サラが興味深そうに応じる。「海に出ている兄上に何かありそうなのか?」

「彼は無事よ。おそらくね。ともかく急いでいるの。あなたの飛翔速度だったら速達郵便よりはるかに速いでしょう?」

「それは無論任せておけ。――人目についてもいいのかね?」

「かまわないわ。あなたと私の存在は、そろそろこの辺りでは周知されている気がするもの」

「うむ。では承った。青空の下を堂々と飛翔するのはよいものじゃなあ!」

 サラが嬉しげに飛び出していくなり、眼下の街路から、

「おー―!」

 といった感じの親しみのこもった歓声があがるのが聞こえた。

 

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