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第七章 モンストゥルム・エクス・マーキナ 3

空気精霊(エアリアル)を探索に送り出してすぐ、エレンはクリスティーンに頼んで、肖像画に描きこまれた地琥珀の首飾りをできるだけ正確に模写してもらうことにした。

「任せておいて。細密画(ミニアチュール)は大得意なの!」

「お願いいたしますレディ。念のため資料として手元においておきたいのです」

 音楽と絵画と多少の外国語は貴婦人には必須の教養だ。

 クリスティーンが熱心に模写にかかるのを見届けてから、エレンは書き物机に向かって『モンストゥルム・エクス・マーキナ』の読み込みにとりかかった。


 そうして午後中読んだ結果、〈ウェステンアビーの人面獅子(スフィンクス)〉の正確な機能がようやくに判明した。


 人面獅子が映すのは博物堂に鍵がかかっていないときに、一対の像のあいだを通って堂に入った人物の姿のみで、施錠されているとき通った人物の姿は映さない。

 そして、映像が残るのはその日一日のみ。

 日を跨げば前日の分は映らなくなる。


 そう説明したところ、クリスティーンは何とも言えない表情を浮かべた。

「……何だかそんなに役に立たなそうな仕組みね?」

「どちらかというと、製作者以外の魔力を感知したときに咆哮するという機能のほうが本来の役割だったようですわ。ともあれ、そうなりますと、盗難あるいは紛失に魔術的な力が用いられている可能性はごく低くなります」

「じゃ、あなたは、首飾りはどうやってなくなったと思っているの?」

「そうですわね――」

 まだ不確実な予想を口にしようかしまいかエレンが逡巡しているとき、細く開けたままの窓の隙間から、淡金色の微光を帯びた風が吹き込んできた。



 ――報せだ女主人(ミストレス)……



 耳元で風が囁く。


 エレンは腕を広げて淡く光る人型を抱き止めながら応えた。

「ご苦労さま空気精霊。よく戻ったわね。捜すものは見つかった?」



 ――否。空気のなかにはない……



「そう。ありがとう。もういいわ」


 告げるなりフッと人影が滅える。


 傍らで様子を伺っていたクリスティーンが興味深そうに訊ねてくる。

「ね、捜させていたものって地琥珀の首飾りよね? もう敷地内にはなかったの?」

「いえ、空気の中にはなかったのですわ」

 エレンは色々と考えをまとめながら応えた。

 クリスティーンがぴくりと眉をあげる。

「……どういう意味?」

「言葉通りの意味ですわ。――ところでレディ・クリスティーン」

「なに?」

「このウェステンアビー・ホールには、池は何か所あります?」

「何か所って、あの博物堂の小島のある池だけだと思うけど――」

 そこまで口にしたところで、クリスティーンがグーズベリー色の眸を見開き、ぎょっとしたように口元を掌で抑えた。

「ミス・ディグビー、あなたまさか、犯人が盗んだ首飾りを池に投げ込んだって思っているの?」

「ええ」

 エレンは頷いた。

「その可能性が高いと思います」

「でもじゃ、放り込んだあとどうやって回収するつもりだったのよ?」

「――推測ですが、犯人はおそらく、回収するつもりはないのだと思います」

「それどういう意味よ?」

「ですから、言葉通りの意味です。――レディ、ひとつお願いが」

「なに?」

「わたくしを今すぐ門屋敷(ゲートハウス)まで軽装馬車(ギグ)で送ってくださいます? 警視庁(ヤード)に連絡をとって、大至急調べさせたいことがあるのです」

 真剣な仕事モードで訊ねるなり、クリスティーンはすぐさま表情を引き締めて頷いた。

「分かったわ。任せて。他に何か手伝えることは?」

「――今のところはそれだけです」

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