第六章 花園での密談 1
「ところで皆様方――」
と、スティーヴンソンが主にエドガーに向けて訊ねた。
「ご昼食はいかがなさいますか?」
そういえばもう昼時なのだった。
招かれざる客のエドガーが声を立てて笑う。
「私の存在は気にしなくていいよ! 折角だから外に出よう。ミス・ディグビー、もしよければ――」
エドガーがそこまで口にしたとき、
「ああ、戸外はいいわね! とてもいい天気だもの」
クリスティーンが無邪気に応えてエレンの腕を左からつかんだ。
「ね、ミス・ディグビー、折角だからお花を見てよ。薔薇園でピクニックにしましょう! いいでしょハロルド? スティーヴンソン、サンドイッチとお菓子を薔薇園に持ってきてよ。それから籠と鋏もね」
「ノーズリー卿、よろしゅうございますか?」
「あ、ああ。うん。まあいいよ」
ハロルドが歯切れ悪く肯うと、クリスティーンは嬉しそうに目を輝かせた。
「ありがとうハロルド。お願いねスティーヴンソン」
「お嬢様がた、くれぐれもお気をつけて」と、堂内の展示品を検めていたカミーユが心配そうな顔で口を挟んでくる。「不審者はいないと思いますがね、わたくしはもうちょっとこの付近を調べています」
「あ、ああ頼むよカミーユ」
ハロルドがぎこちない口調で応じる。
すると〈老魔女〉は可愛くってたまらない幼い相手を眺める表情で笑った。「お任せください坊ちゃん」
そのいかにも親しみの籠ったやり取りに、エレンは違和感を覚えた。
――ノーズリー卿は本当にこのマダム・ロジェを疑っているのかしら……?
スティーヴンソンに先導され、桟橋のような橋を渡って岸へと戻る。
右手に見えるボートハウスの傍に二輪馬車と軽装馬車が並んで停めてあるものの、馬とトビアスの姿は見えない。
「爺さんどこ行っちまったんだろう?」と、ハロルド。
「林で馬を遊ばせているのでございましょう。ハリー、見つけてきてくれ」
「はいミスター・スティーヴンソン」
ブロンドの門衛が恭しく答えて捜しに向かう。
ややあってトビアス爺さんと四頭の馬が戻ってきた。
それほど遠くには行っていなかったらしい。
エレンはまたしても違和感を覚えた。
「なあミス・ディグビー……」
背後からエドガーが耳打ちしてくる。「あのトビアス爺さんは、さっきの咆哮が全く聞こえなかったのかな?」
「もしかしたらいくらか耳が遠い……のかもしれませんわね」
答えながら、エレンは胸中になんともいえないモヤモヤとした不安が湧き上がるのを感じていた。
――ノーズリー卿はわたくしに様々なことを隠している。
そのことは間違いないわ。でも、それは一体何のため? 彼は何のためにわたくしをここへと呼び寄せたの……?