第五話! 電車と走る!
「何だあれは!」
「おそらく、組織の研究している、特殊生物だろう」
俺たちは、先頭車両と思われる車両に着き、泥の怪物を見て前の部屋に戻ってきていた。目の前には先程と変わらない、大量の本が散らばっている。
「あの怪物を倒さなければ、操縦室に辿り着けないな」
「どうやって倒すんだ?」
「分からない。……この本に何か書かれているだろうか」
リキは散らばった本の中の、1つだけ開いた本を指さす。
「…………」
「…………」
「…………………………………………………………僕が読もう」
俺はリキに勝利した。
リキは本に近づき、手に取る。
「どうだ。何か書いてありそうか?」
「……開かれていたページを読んでみたが、これはおそらく職員用のマニュアルだろうな。『脱走者が出た場合の対処』のページが開かれていた」
「そこにはなんと?」
「『まだ脱走者の体の自由が奪えているなら薬棚57番を使う。脱走者が自由に動いているなら脱出、また、最終手段としてX.No.12の解放をすること』と書かれている」
「ふむ。ではおそらく、あの泥の塊の怪物が『X.No.12』だな。それに対する対処法は書かれているのか?」
「……少し待ってくれ」
そう言ってリキは、手に持った本に目を落とし、次々とページをめくっていく。
X.No.12……長たらしいので、泥の怪物と呼ぼう。
まったく、ネーミングセンスのない組織だ。
ただまあ、わかりやすい名ではある。おそらく他にも11体以上はあのような怪物がいるんだろう。
そう考えると、なかなか凄い組織ではないか。
「リキ。この組織に名前はあるのか?」
「ああ。Xと言う」
……短くて呼びやすい名ではあるが、逆に分かりにくいな。
というか、1文字の名なんて、他と被りそうだ。
俺がそんなことを考えていると、リキは本を閉じた。
「何か分かったか?」
「ああ。X.No.12の対処法について読んだ」
「なんと書かれていた?」
「要約すると、X.No.12が脱走したとき、戦闘員がいるなら薬を使い制圧する。戦闘員が乗っておらず、能力者が乗っている場合は能力者を解放する。最終手段として、そのままの脱出。といったところだな」
……泥の怪物の対処に俺達、俺達の対処に泥の怪物を使っているあたり、役に立たんマニュアルだな。
「リキ。俺達はどうする?」
「脱出を選びたいところではあるが、操縦室に行く以外の外に出る方法が分からないからな。ここは薬を使ってX……泥の怪物を倒してみよう」
「分かった。それで、薬ってのは何だ?」
「僕にもよく分からないんだが、薬棚61番らしい……これだな」
リキは棚の引き出しを開けた。
そこには、薬と思われる液体の入った瓶と、針がむき出しで形が少し特殊な注射器が入っていた。
リキはその注射器に液体を入れる。
「使い方は分かるのか?」
「書いてはいなかったが、あの泥の怪物に刺せばいいのだろう」
「よし。それでいこう!」
完璧な作戦を持って、俺達は扉を開けた。
俺を先頭にして、扉を抜ける。
そこには赤い床と壁が当然のように広がっている。
前入った時と何も変わらず、そこには泥の怪物がいた。
「行くぞ!」
俺は走り、泥の怪物との距離を一気に詰めた!
リキは俺の後ろから着いてきている。
……俺は何をすればいいんだ?
ううむ。とりあえず。
「スピードソード!」
正面から斬る!
俺のスピードソードは泥の怪物に直撃する。スピードソードはそのまま、泥の怪物の中にとてつもなく重い抵抗を受けながら入る。
しかし、斬り裂いたところから泥が繋がっていく。
スピードソードの勢いは、重い抵抗を受けて無くなってしまう。
クソ! だからよく分からん生物は嫌いなんだ!
泥の怪物はスピードソードを伝って俺の方へと手(?)を伸ばしてくる。
「下がれ! スピードスター!」
リキが蒸気を上げて大きくなった左腕を使って、俺を右へ飛ばす。
その衝撃で、俺はスピードソードを離してしまう。
スピードソードは、刀身を泥の怪物に埋まった状態となる。
リキのやつ、なんてことをしてくれてるんだ!
「うおおおォッ!」
リキが細いままの右腕で握った注射器を、泥の怪物にぶち込んだ!
そうだった! それが目的だった!
「……っ!」
泥の怪物が、注射器を伝ってリキの腕へと手を伸ばす。
それは一瞬にして、リキの腕を掴んだ。
「大丈夫か!?」
「……ああ!」
リキは太くしていた腕を細くすることで、泥の怪物の拘束から逃れる。
その腕の変化によって煙が発生して、俺からは泥の怪物とリキが見えなくなった。
煙が左右に切り裂かれ、リキが後ろ飛びをして出てきた。
泥の怪物はまだ煙で視認できない。
「リキ、状況は?」
「分からん。薬を注射することはできたが」
少し経って煙が晴れ、泥の怪物が姿を現す。
見てみると、泥の怪物の全身が固まっている。
これなら斬れる!
「スピードソードォ!」
泥の塊を正面から斬ろうとして叫んでみたものの、そういえばスピードソードは泥の怪物に刺さったままだ。
俺は叫んだ後にスピードソードを引き抜いて、泥の怪物を斬ることとなった。
その間、泥の怪物が動くことはなかったので、泥の怪物はもうすでに死んでいたのかもしれない。
俺達は泥の怪物に勝利した。
「やったぞ! リキ!」
「ああ、操縦室へ行こう」
「おう! 操縦はできるのか?」
「……なんとかなるだろう」
俺達は電車の先頭に向かい歩き出す。
突然、キイー、と高いブレーキ音がして、電車が減速した。
慣性で、少しだけ足がふらつく。
そのとき、ポーン、というチャイムの音が聞こえた。
「まもなく、第一拠点前。降り口は、左側」
恐らく、自動でなるように設定されていたのだろう。
操縦室はここから見て人がいないことが分かる。
さらに、駅のようなものが前の方に見えた。
「リキ、第一拠点前って――」
「窓から飛び降りろ!」
リキはそう言って、右側、降り口の反対側の窓へと向かい、鉄格子を曲げ始めた。
電車はほとんど減速しきっていて、今から外に出ても飛び降りる、というよりただ降りるだけになるだろう。
鉄格子をリキが一本抜いた。
カランカラン、という音が二つ聞こえ、同時に、プシュー、という空気の抜けるような音が聞こえた。
扉の音だと思った。
しかしそれは、扉の開いた音というわけでもなく、また、鉄格子を二本外した音というわけでもなく、外から投げ込まれた何かが、ガスを発していた音だった。
目が覚める。眠っていたようだ。
知らない天井が見える。ここは病院だろうか。
謎の機械に囲まれている。
――確か、謎の組織の拠点らしきものに着いたのではなかったか。
だとすると、この状況はかなりまずいのではないだろうか。
ひとまず、体を覆う拘束器具を外し、辺りを見渡す。
辺りは暗く、病院というには清潔感の足りない、散らかった場所だ。
リキがいる。起きている。
「リキ、大丈夫か」
近寄ると、拘束器具で口をふさがれている。
斬ろう。
「スピードソードッ!」
なんと、スピードソードが俺の腰に差したままである。
金属音がして、リキの拘束は解かれた。
「助かった」
「状況は?」
「拠点が何者かに襲撃されている」
外から悲鳴が聞こえてくる。何かと戦っているような音も。
「俺は外への道を探す。リキ、動けるか」
「ああ」
俺達は出口を探して、少し歩いた。
やっとのことで出口を見つけて外を見たとき、その光景に驚愕した。
「おや、スピードスターさんですか」
住職さんが、そこにいた。
「その鎧は……河童の技術でしょうか」
「住職さん、なぜここにいるんだ?」
「この組織を、封印することに決めました」
「そうか……」
一瞬、住職さんが黒幕だったのかと思ったぜ。
リキが前に出て、住職さんに話しかける。
「僕を人間にしてくれませんか」
「……特別に、私に勝てたらいいですよ」
住職さんがそういった瞬間、リキと住職さんとの戦いは始まった。
始まるのも、終わるのも一瞬であった。
真正面から殴りこんだリキを、無視したような神速の一撃だった。
リキは地面に倒れこむ。
「俺とスピード対決をしてくれ」
そして俺も、戦いを挑む。
その戦いは、一瞬の出来事だった。
リキの戦いよりも早く、そして速かった。
残像だけがその場に生じ、立っていたのは住職さんだけだった。
俺たちは住職さんに完敗した。
「強くなりたければ、これが示す人類の敵を倒しなさい」
そういって住職さんは、方位磁針、コンパスのようなものを落として、どこかに消えていく。
「封印」
今度はその言葉を残して消えていく。




