第四話! 知らない床!
夢を見ていた。
夢の中の自分は普通の人間だった。
輝く月の浮かぶ夜空の下で寝転んでいた。
月が光を失っていくのを見て、少し恐怖を感じて気持ちのいい夢から覚めてしまい、俺はもう、普通の人間ではなかった。
目を開けるとそこには、刀を構え黒鎧を身に着けた男がいた。
俺の名は、超! スピードスター!
目が覚めると辺りは暗く、見知らぬ床が見えた! といっても珍しいことではない! 俺は同じ場所で寝ることの方が少ないからな! しかし、俺はいつの間に寝てしまったのだろうか。そして、ここはどこなんだろうか。
――河童。彼らは良い河童達だった。彼らはお礼として刀を直してくれただけではなく、その程度のことなら礼にもならない、と言いながら、とてつもなく軽くて黒い鎧を作ってくれた。
さらに彼らは、速かった。俺ほどのスピードはないが、とても速い猿といった動きだった。
もしかしたら川の中や森の中では、彼らに負けることもあるかもしれない。そういえば、勝負をすることなく出てしまった。まあいいだろう。あの山に行けばまた会うことはできるのだから。
……そうか。俺は電車と戦いに来たのだ。あの山に行く前にあった男から言葉が気になり、俺は山を下りて車と勝負した。しかし、車は特に速くもなく、途中で着いてこれなくなって棄権したため、俺は余裕をもって車に勝利した。
その後、俺はさらに速いものと勝負するため、駅のホームで電車を待っていた。
そうだ。思い出した。電車が来るのがあまりにも遅くて、待ちきれずに寝てしまったのだ。
さて、すべて思い出したはずだが、ここがどこかは結局分からない。しかし、見た目からして、きっとここは建物の中だろう。
立ち上がってみると、足がふらついた。というより、床が動いた。どういうことだろう。俺はもう、電車の中にいるらしい。もしかしたら俺には、無意識の内に電車に乗る能力があるのかもしれない。
もう一度キィ、という音とともに床が動き、足がふらついてしまった。ふらついた足で、なにかを踏んだ。
なんだろうか。足をのけて見てみると、それは動いていた。人間であった。仰向けに寝ているようで、目が合って、驚いたような顔をして口を開く。
「……誰か……いるのか……」
「人間か! お前は誰だ?」
「……僕の名前は、リキだ」
「そうか! 俺の名は、超! スピードスター!」
「……お前が、僕を捕まえたのか?」
「……? 何を言っているんだ?」
よく見てみると、地面に横たわった彼は腕を後ろで組んで動いていない。
「……じゃあお前は、捕まえられてここに来たのか?」
「俺は誰にも捕まえることはできないから、違うだろうな!」
「……? ……とりあえず、君が僕の敵でないというのなら、僕を助けてくれないか」
「いいぞ! 俺はどうすればいい?」
「まずは手錠を外してくれ」
「手錠をされているのか」
俺は横たわったリキを手で押して、背を上に向けさせた。すると、彼の手には手錠が2個も、はめられていた。
「じっとしてろよ! スピードソード!」
俺はスピードソードを使って、彼の手を傷つけないように手錠を斬った。
手錠は真っ二つになり、床に落ちる。
「ありがとう。助かったよ」
「ああ! どういたしまして!」
「君。ここから逃げる気はあるかい?」
「逃げる? 何から逃げるんだ?」
「君は本当に何も知らないんだね。助けてくれた礼に教えてあげるよ。僕達はいま、とある組織に捕らえられているんだ」
「とある組織?」
「ああ。危険な力を持った特殊な生物、あるいは、特殊な能力を持った人間を隔離、研究する組織だ」
「そうか! よく分からん!」
「……君は特殊な能力を持っているのかい?」
「俺は常人より速く走ることができる!」
「……そうかい。それが能力なのかもね」
「お前にも何か能力があるのか?」
「…………僕には『腕を太くする能力』がある」
「『腕を太くする能力』?」
ああ、と言ってリキは立ち上がり、腕を持ち上げて曲げた。
すると、リキの腕から突然煙が立ち上り、腕の太さが3倍ほどになった。
「すごいな!」
「……コントロールするのが難しいがな。さて、早く逃げよう。スマホか懐中電灯は持ってるか?」
「持ってないぞ!」
「そうか……困ったな。暗くて周りが見えない」
「そういうことなら、任せろ! おれのスピードソードは暗闇で光るんだ!」
スピードソードを鞘から抜くと、妖しく発光しだし、辺りが照らされた。
見渡すと、少し道幅が広めの、電車の中であった。窓は全て取り外され、鉄格子が嵌っている。外の風景は、かなり速く動いていた。
足元には、8本の手錠が落ちていた。リキの腕に2本嵌っていたことから考えると、俺に6本嵌っていたのか? それとも1人に4本ずつだろうか。
「おいリキ。お前に手錠は何本嵌められていたんだ?」
「腕に2本と、足に2本の足錠が嵌められていたな」
「そうか。その足錠はどうしたんだ?」
「ちぎれたぞ。僕は脚の方が強いんだ」
「その見た目で脚が強いのか……」
面白い奴だ! 仲間にしたい!
「さあ、進むぞ」
「ああ!」
「おそらく電車の先頭に操縦室がある。そこに行けば電車を停止させ、降りることができるはずだ」
俺達は足元を照らしながら、電車の通路を、電車の進む方向に歩いた。
電車の揺れでふらつきながらしばらく歩くと、車両の先頭に着いた。次の車両に行くための扉が閉まっている。
「どうする? 俺のスピードソードで斬れるか試すか?」
「いや、1度僕の力を見せておこう」
そう言ってリキは、少し下がり、助走をつけて扉を蹴った。
ガンッと音を立てて、扉が凹んだ。
リキはできた隙間から手を入れて、扉を掴んで引っ張った。扉がミシミシと音を立てる。このままいけば、人が通る程の道は開けるだろう。
しかし、扉がかなり曲がってきたときに、リキは掴んでいた扉を離した。
「どうした! やはり開けないのか?」
「いや……これ、このボタンを押せば開くんじゃないか?」
そう言ってリキが指差した先には、緑色のボタンと黄色のボタンがあった。緑色のボタンには矢印が外側を向いたような図がある。
「おそらく、これだろう」
そう言ってリキがボタンを押すと、扉はガタガタと音を立てながら半分ほどまで開き、引っかかって止まった。
「リキ! お前は頭がいいんだな!」
「……これじゃ僕が通れない」
リキは自分の太くなった腕を見て言った。
「その腕、小さくできないのか?」
「……時間が経つまで戻らないんだ」
「そうか。……横向きに通ったらいいんじゃないか?」
「……! お前は頭がいいんだな!」
「ああ! 俺は頭がいいんだ!」
頭のいい俺達は、リキを先頭に半開きの扉を抜けた。
扉を抜けた先は、小さな部屋だった。部屋の両脇に本棚を置いているせいで、本当に小さい。床には大量の本が散らばっている。その中で、1つだけ開いたままの本が置いてあった。
「俺はこの本が怪しいと思う! リキ、読んでみてくれ!」
「僕もこの本が怪しいと思う。スピードスター、読んでみたらどうだ?」
「…………」
「…………」
俺達は、次の扉のボタンを押し、部屋を後にした!
「……っ!」
扉を抜けた先には、壁も床も、赤く染まった部屋があった。
部屋の向こう側で、死体が泥の塊ような怪物に潰されている。
「…………」
「…………」
俺達は、部屋を後にした!




