メンヘラっけを感じるんだよなぁ……。7
具体的な、内容は決まっていなかったので、概要だけ説明すると、三人とも難しい表情になった。
それぞれ、実行できるかという事を持ち帰って考える事になりその場はお開きになる。
けれど、私だけはサディアスの部屋へと残っていた。
私は、彼には全部の事実を伝えておくつもりだった。エリアル先生は、私の状態を他人に伝えるべきでは無いと言っていたが、それに従って、隠して、一人で上手くやれるほど、私は頭の良い人間では無い。
チェルシー達を見送って、サディアスと共に部屋に戻ると、いつもの侍女ちゃんがお茶を出してくれる。
チームで集まる時にいつも出してくれる、大きなテーブルに向かい合って二人で座る。彼は未だにしかめっ面をしていて、先程私が話した作戦にも、納得していないし、私が部屋に残って、彼にだけする話の内容を警戒しているのだろう。
そんなに、怒った顔しなくてもいいのに。
あまり機嫌が悪いと話しづらいのだ。
私がご機嫌伺いのように、彼のことを見つめると、また、はぁとため息をつく。
「……ひとついいか」
「うん」
「はぁ……俺はな、君らの事情に首を突っ込めるほどの権力も立場も無い。正直、王太子殿下の事も会話をするだけで恐れおいし、君の手助けにはなれない」
何の話だろうか。サディアスの身分で、ローレンス達に渡り会えない事ぐらいは私だってわかっている。大企業の社長と敵会社がバチバチやっている所に部長クラスが割って入るような事をしてもらうつもりは無い。
……貴族社会って、会社で例えるとわかりやすいな。
ふと思いついた例えだったが、意外にもしっくり来てふふっと笑う。
それで例えるなら、ヴィンスは大企業のスパイ、私はそうだな、目新しい新商品と言ったぐあいだろうか。
「ヴィンスはローレンス殿下の差し向けた君の監視のような物だろう?違うか」
「あってる。本人にその自覚はあんまり無いみたいだけどね」
「……そうだろうな。彼には悪気がない。そして、状況が変わろうとも、自分には関係がないと思っていそうだ」
うん、だいたいあってる。サディアスは本当に話が早くて助かる。
「ただ、俺にわかるのはここまでだ。……そもそも君はなぜこの学園にいる。ヴィンスの事をどうして今更切り離そうとしている。そこが俺には分からない。……ただな、知りたいとも思わない」
真剣にそう言われ、予想外の言葉に、彼を見つめた。サディアスはお茶で口を潤した後、トントンと机を指でノックする。
「クレア、俺は……自分の立場が最優先だ。チーム結成当時から言おうと思っていた事だ。君の厄介事に、俺は巻き込まれるつもりは無い」
イライラしているように見えるが、この人は意外と自分がわかりやすいという事に気がついて居ないのだと思う。
これは拒絶というより、予防線だろうと思う。私と同じでサディアスも言いづらいことを頑張って言うタイプだ。まだ、何も起こってはいないが、自分がひいては自分の家族が不幸を被らないように常に神経を張り巡らせている。
「うん」
「ローレンス殿下に敵視されるような事があれば、俺がどうなるか、君にもわかるだろう。……俺を使い勝手がいいからと言って巻き込むな」
ちょっとだけ、心が痛い。というか普通に、少し悲しい。
カツン、カツンと、机を叩く音が響く。
私は少し返答に困って沈黙する。これは「そんなことはわたくしには関係なくてよ!!!」とお嬢様言葉で跳ね返していい問題じゃないなと思う。
例えば、自分の行動に、巻き込んだ人への責任が取れる人なら、そんな事はわかっていると簡単に返せる。何も考えない、浅はかな人間なら逆ギレで一蹴することだってありだろう。
それとも悲観的に考えるなら、見限られた、自分にはもう頼れる人がいない!だろうか。
うーん。それは違う、今までのどれとも違う。私は、サディアスに相談するべきだと思ったけれど、巻き込もうという意識はなかった。
であれば、私は彼に何を望んだ?
「……そうねぇ……あまり深く考えなかったというのもあるけど、サディアスは面倒見がいいからつい」
「そんな事は無いといつも言っているだろう」
面倒見が良いかどうかは、自分で判断することは出来ない場所なので論点はそこでは無い。
私とサディアスの関係性は、割とフラットだと自分は思っている。ただサディアスから見ればそうでは無く、手に負えない事を押し付けられる可能性を考えている。
つまり、サディアスは自分を私より下だと見積もっているのか。個人的な技能、立場、身分、そういうものを彼の中で勘定すると、彼の立場は私に面倒を押し付けられる立場だと思っている。
「でも貴方、私がすべて話しをして、協力しろと迫ったら、するんでしょ」
「…………」
サディアスは苦い顔をして、指で机を叩くのをやめる。昔からの身分の差やそれをおもんばかる精神は簡単には変わらないんだろう。
「君はわかっていると思うが、俺は、本当に、まったく、有能じゃない。まだヴィンスを上手く言いくるめて騙して駒にした方が使い勝手がいい」
否定はしないらしい。……私が認識している、サディアスと、サディアス自身が認識している自己評価に齟齬があるようだ。
「……困るんだ……本当に、まだ弟達だって小さい。父が昨年に事故で他界してから、家を回しているのは母だ。俺は平穏に魔法使いになる必要がある」
追い詰められたらしい彼は、ついに身の上話をし始めた。
お父さんが亡くなっているのは初耳だし、前世の常識を持ち込んでいいのか分からないが、子沢山でシングルマザーは非常に大変だろう。
「クレア、君はローレンス殿下に心酔していただろう?素直に殿下に従ってはいられないのか?」
それはサディアスが先程、聞きたくないと言った事を話さなければ説明できないのだが……うーん。
「ちょっとそうもいかなくてね」
「……そう、か……はぁ……君は俺の気苦労を考えたことがあるか?」
「まぁ、ぼちぼち」
「頼む、本当に穏便な方向で、動いてくれ。俺のスタンスはずっと変わっていない、何事も個人の感情より、大局を見て行動を起こすべきだ」
「知ってるよ」
「本当か?……はぁ、分かってるとは思えないな」
彼の言い草に、なんとなく、私達が朝、険悪だった時点から、色々、関係性やら、可能性を考慮して考えていたのだろうと察しが付く。サディアスの行動はいつも大人びているし、やっぱりその性格だと気苦労な耐えなさそう。今だって、顔色が悪いし。
話は延長線を辿っているので、少しサディアスの気苦労を、減らしてあげようと思い立つ。
「ねぇ、サディアス」
「何だ」
「手を出して」
私がテーブルの上で両手を差し出すと、彼はグッと眉間に皺を寄せる。
「はぁ……こうして君に触るのだって、本当は胃が痛い思いなんだが」
「サディアスは気が小さいって言うより、性格のせいでストレスが溜まりやすいんだろうね」
「……違う、君が状況の深刻さを理解していないだけだ」
そう言いつつ、悴むような冷たい手を私の手に重ねる。緊張するとこうなるのか、それとも常に冷え性なのか、どっちだろう。
彼の手を温めるという事を意識して、魔力を込めると、キラキラと光の波が両手を包む。
「……君が……どういうつもりなのか、なんて聞かないぞ、俺は。……絶対に」
どういうつもりも、こういうつもりも無い、そんなに緊張でストレスがかかっている状態だと、夜眠るのだって苦労しそうだ。ローレンスのように深夜に動き回るようになってしまっては大変だろう。
大事なのは、緩急だ。仕事をする時は仕事、休む時はきっちり休憩。
そうでなければ心も体も不安定になってしまう。




