倫理観……。11
一度、来客の確認をサディアスにしてそれから、侍女ちゃんは部屋の扉を開ける。
「クレアに用があるらしい」
サディアスは言うだけそう言って、ヴィンスと二人でやっているババ抜きに集中したいのか、ふと視線を戻す。そう思えばヴィンスは、会話は続かないがゲームの相手なんかは、私以外でもなんの問題もなくできるらしい。
席を立って、扉の方へと向かう。そこから顔を覗かせたのはディックだった。相変わらずフラフラというかふわふわ揺れている。
「君ら、あれだけ険悪だったのに、……今や、クラス一仲のいいチームだね」
「あ、もしかして私の部屋にも行った?ごめんね」
「別に、オスカーが居場所を知ってたからあまり探さなかったし、問題は無いよ」
「そう?」
私が首を傾げると、ディックは簡易魔法玉に似たような簡素な作りの宝石を取り出した。
「……もしかして、やっと出来た?」
「うん、エリアルがカンカンだったよ」
「カンカンって私に?」
「君に」
「教師棟に入るための魔法玉のお願いをしたのいつだっけ?」
「三週間前だね」
「そんなに調達に時間がかかったの?」
「いや、一日」
……ディックにお願いしたのが悪かったか……。まぁ、仕方ない、怒られよう。
三週間前、エリアル先生に呼ばれているという事を思い出して、私は割と直ぐに、教師棟へと赴いた。けれど、棟に入るために、登録が必要だった。私の魔法玉を登録する訳にも行かないし、既に登録されている、職員用の魔法玉が欲しいとディックに伝えてあったのだ。
そしてそれを言ったのが、三週間前、そして今、まさに今日思い出して持ってきてくれたらしい。
「……だって、僕はそもそもお使い係じゃないし!エリアルだって人使いが荒いんだよね、面白いことに僕を参加させてくれるなら別だけど?秘密にしたいみたいだから、僕が協力する義理がないと思わない?」
ディックがツンとした態度でそう言って、ここまで言い訳をするという事は罪悪感はあるんだろうと思った所で、スパンと小気味の良い音が響く。
どうやら扉の外で待っていたオスカーがディックの頭を叩いたらしかった。
「素直に謝れって、お前、嫌われんぞ」
「……だから?クレアに好かれたいとか思ってないけど……魔法玉は興味あるけど、本体はどうでもいい、ああでも?本体もおもしろ──────
スパンとまた、オスカーが頭を叩く。なんだかだんだんこの二人の距離感や容赦のなさが上がっているような気がする。
「お前なぁ、いい加減にしろ、お前が夜な夜な言ってる泣き言バラすぞ」
オスカーのキレ具合も上がってきているらしい。強引に肩を組んで、ディックに顔を近づける。するとディックはムッと頬を膨らませて、私に強引に登録魔法玉を握らせる。
「……僕もちょっとだけ悪かった!」
「っはは、偉いなぁ」
うりうりとディックの頭を撫でくりまわし、オスカーはそのままディックと肩を組んだまま歩いていく。ディック単体だと、フラフラしているし、約束も授業も忘れる不審者で、感じの悪い人だがオスカーが側に居ると途端にフワッフワッの茶髪の犬のように見えるのは何故だろうか。
「あの二人って独特の雰囲気ありますよね?」
私の後ろでやり取りを見ていたチェルシーがそう呟く。私も同じような事を思っていたので魔法玉を首につけつつ振り返って同意する。
「ね。夜な夜な二人は一緒にいて?ディックが泣き言言ってるってどういう状況?」
「きっと、鍛錬です、クレア。お互いに限界まで腕立て伏せをして、お互いを称えて本音を話す……そういう友情です」
シンシアが目をキラキラとさせながらそう言うが、正直よく分からない。男同士だと良くあることなのかと思い、ヴィンスとサディアスを見ると、今日も今日とて、ババ抜きでヴィンスが勝っていた。




