腹黒男め……。9
……入学式、楽しみにしてたんだけどなぁ。
もっと校長の挨拶とかで尺を稼いで私たちが来るまで持たせて欲しかったよ。
しょんぼりとしながら、練習場へと続く道のりをオスカーと共に歩く。練習場とは、昨日見たコロッセオのような形をした建物で、個人的には、練習場よりも、闘技場の方かしっくりくるのだが、教育機関なのでそんなあからさまなネーミングというわけにはいかなかったのかもしれない。
前世であれば、入学式後には学内案内があったりクラスに別れて親睦会なんかがあると思うがこの学園では、まず第一に実技らしい。
「オスカー、貴方魔法は得意なの?」
「もちろん、ウィングもそれなりにいい腕の技師に頼めたしな」
彼は魔法玉を取り出して、少し屈んで私に見えるようにした。
“ウィング”というのは、魔法玉の素材不明の装飾部分の事だ、彼の魔法玉は確かに精巧な作りをしている。
魔法玉は宝石部分の事を“コア”。装飾部分を“ウィング”と呼び……ええと、確か『ララの魔法書!』でララがわかりやすい例えをしていた気がするなんだったかな。
「お前は大丈夫か?エセお嬢様」
「……ウィングは問題ない……はずなのよ。羽振りはいいから」
「ふーん?」
誰が羽振りがいいのかという事についてオスカーは聞いてこない、私だってローレンスが用意したとは言えないので聞かれなくてありがたい。
ちなみに、ウィングを作るには、それ相応のお金が必要になる。まずは特別な技師に依頼をして、前金を払い、順番待ちをして、やっと自分のウィングを制作してもらえる。
その依頼をするだけでも、大きなお金が必要だというのに、腕のいいものに発注すれば家が建つぐらいのお金が必要だと物語では書かれていた。
原作は、簡易魔法玉という、個人に合わせたウィングを必要としないアイテムを使っていたので、そういうお金で格差が出るようなことは無かったが、この学園では、ウィングの事情も実技の成績に大きく影響するだろう。
……そうだ、確か、車に例えると、“コア”はエンジン、“ウィング”は車体、そして魔力はガソリンだ。
すべて揃って魔法が使える。
「ここだな。まだ実技は始まってない、急ぐか」
「うん」
オスカーが駆け出したので私も後に続く。到着して、練習場の重たい扉を開けると、室内と言うよりも客席のある運動場のようだった。
本来天井があるべき所は、ぽっかりと空いていて、太陽の日差しがさんさんと生徒たちを照らし出している。
今は待機時間なのか、学生たちは、それぞれ仲間内で雑談をしている。私たちが入ってきた事に気がついているのは数人程度だ。
辺りを見回すと、ヴィンスを発見した。オスカーもディックを見つけたようで私に一度振り向く。
「じゃあな、お互い頑張ろうぜ!」
「うん!またねぇー」
彼は忙しなくディックの方へと走っていって、軽く手を振った。私も振り返し、ヴィンスの所へ行こうと考えてから、少し足を止める。
ヴィンスは、誰とも話すつもりは無いと言うように目線を下げて、微動だに動かない。
そうしている所をみると、随分大人びて見えた。感情が見られないからだろうか、ミステリアスというか神秘的と言うか……何とも言い表しづらい。
ヴィンスの事を伺っている様子の生徒は周りに多少いるが、彼はそんなことはお構い無しだ。
……意外だね……いや、想像できたか。ヴィンスは、私以外にはまったく好意的ではない。原作の方でもクラリス以外には、いっさい反応しないような子だったのだ。今も同じだということに違和感はない。
……でも、このまま、ヴィンスは一人でいた方が、私なんかといるより、友達ができるかもしれない。少し声をかけないでいようかな。
立ちすくんでいると、女性陣の黄色い声が後ろから聞こえた。
「あれが本物の、ローレンス殿下なのね!」
「麗しいわ!なんて素敵なの?」
「この目で見られるなんて、私、幸せ者だわ」
私のそばにいた女性グループだ。
視線の先には、注目の的の王子様だ。今日は護衛らしき人物が二人もついている。私たちと同じ学生の護衛のようで制服を纏っているが目付きが鋭く、隙なく周囲を警戒している。
確かにローレンスは顔は良い……まぁ、どんなに腹黒でも顔がいいのは事実だから、仕方ないんだけどさ。
この子達とは馴染めそうにないなぁと思いながら視線を向けると、そのうちのあまり男性に興味がないらしい女子生徒と目が合った。
それからその子は、他の子の肩を叩いてヒソヒソと何かを話し、全員が私の存在を認識したあと、ジリジリと離れて行った。
……うん、避けられてるね。
昨日だけでなく、入学式である今日まであんな事件を起こしていればこうもなるだろう。




