一難去ったらまた一難……? 6
後悔はしている。でもヴィンスはそれを盾に、私が助けてと言ったからと言ってまた、意志を捨てるような事はしていない。
むしろ、今だって、私から話を聞いて、自分の行先を考えてくれている。それが私は嬉しい。
「恨んだり、怒ったり……されないのですね」
「……まぁ、私が招いた結果だし……」
「左様ですか…………クレア」
彼はおもむろに立ち上がって私の前に来た、そして膝をつく。
「私は、あの時……私自身の望みが何か、やっとわかったんです」
「……」
「自由だと言われて、クレアの話を聞いて混乱する中……やっぱりそれでも私は……」
真剣な瞳で私を見る。彼の目に私はどんな風に映っているだろうか。
「……クレアに必要とされる事が何より優先すべき、私の望みだと思いました」
つい先日、必要としてくれと縋った彼の言葉とは、少し違ったニュアンスのような気がする。
「それは手段は問わないんです。多分私は、これから何度でもああいった場で貴方様の私を必要とする言葉を聞きたがる。なんなら、自ら、貴方様が私を望むような問題を起こすような気さえします」
「……」
「今回の件でわかりました。盲従する事を貴方様は、それだけは許さない。絶対に望まない。けれど、私の望みだとわかればクレアは折れてくれる違いますか?」
「……多分、あってるけど」
そう、だと思う。話がややこしくなっているが、ヴィンスに選べる余地さえあればそれでいいのだ。
「はい……ですからまた、仕えさせて欲しいんです。クレアにすべての選択や私の事まで背負わせたりはしません。けれど、私はやっぱり貴方様に必要とされたい」
懇願のような言葉に、少し違和感を覚える。
「お願いしますクレア……そうでなければ私は……多分、次なにかあった時……貴方様を治しません」
懇願ではなくどうやら、脅しだったようだ。
これは私の性分をわかっての事だろうか。多分きっとまた、近いうち惨劇は起こるだろう。これはこの体、既に詰んでる悪役令嬢に成り代わった宿命とも言える。
平穏な日々は、割と遠い。
……あぁ、でも、そうだな。彼が本当に望んでいる事は、仕えるという事ではなく私がヴィンスを望むということだそれが彼の本音で、彼の選択した答えだというのなら。
それなら、言ってもいいのかな。
「っ、ふふ、ヴィンス。チェルシーとシンシアには私が家族だって言っていたのを真に受けてるみたいな言い方してたのに、その望み方じゃ貴方はダメなの?実際の関係ってなったら、やっぱり仕えさせてくれって思うの?」
私が先程の二人への演説を引き合いに出して言うと、ヴィンスはぱちぱちと瞳を瞬かせる。
「それとも、家族はダメ?それじゃあ必要としている事にはならない?」
「……それは……わ、わかりま、せん」
「私と家族は嫌?」
「嫌では……ただおこがましいと言いますか……」
「ヴィンス、私ね」
一瞬間を置く、それからすぐそばで跪いている、彼を抱きしめた。
「貴方が必要、本当は、寂しいよ。そばにいて欲しい。そう望まれるのが貴方の望みだって言うのなら、もうなんでもいいや」
「ク、クレア」
身を固くして、ヴィンスは慌てたような声を出すが、抵抗はされない。
「同じ苗字しか、家族要素無いけどさ、私の一番傍にいてよ。私も、そうするから。ヴィンス、ね」
さらさらと頭を撫でる。
「助けて欲しいから、助けが必要だからそばに居るんじゃなくて……そういう風にどうしようもなくて望むんじゃなくて、私は毎日ずっとどんなときも、いて欲しい。貴方がいいって思ってヴィンスを望んでいるよ」
だから、貴方の望みはずっとかなってる。出してもいいなら、言葉にしよう。
ヴィンスが不安にならないように。
「…………」
彼は暫く沈黙してそれから、私を恐る恐る抱きしめ返した。夏が近づいているこの時期、抱きしめ合うと少し暑苦しかったが、今はこの人肌が愛おしい。
「…………私もです、貴方様がいい。……クレアだから……望んで欲しいと思うんです」
「うん」
すれ違っていた、心がやっと安心を見つけたとばかりにストンと落ち着く。ヴィンスも同じように感じてくれているだろう、となんの根拠もなくそう思えた。




