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悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?  作者: ぽんぽこ狸


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114/306

頑張ったんだけどな……。11


 魔力が切れちゃう、死んじゃう。脳みそが焼ききれんばかりに色々な事を考えていると、ヴィンスはおもむろに私の首から魔法玉を引っ張った。ネックレスのチェーンは簡単に弾け飛んで、魔法玉が私の体を離れていく。


 ……だめだめだめ!やめて、魔法が魔力が!!


 何?どういう感じ?どういう感情?助けてくれるの?いや、実は私が大っ嫌い?


 歯をガタガタ言わせながらヴィンスの一挙手一投足を見守る。


 彼は私の魔法玉と自分の魔法玉をカチッと合わせて、ほんの少し魔力を流した。


「あっ、あ?っ、え、はぁ?」


 固有魔法、知ってるの?言ってないのに?助けてくれるの?


 体がヴィンスの魔力を求めて、手を持ち上げようとするが痛い以外の感覚がなくて、まったく持ち上がらない。

 だめだ……やっぱり、魔力を貰えない。上手くできない。ディックに無理やり迫った時は万全だったが、今は集中もままならない。魔法が解けない程度にゆるゆると魔力が入ってきて、それが無くなったら私は意識を飛ばして多分そのまま死ぬだろうと思う。


「……クレア」

「ッ?な、なに?」  


 まったく意図の分からない行動に、半分ぐらい媚びるようにすぐに返事をした。だって、本当にヴィンスが何をするか分からない。平常時だったら適当な屁理屈が言えるが今はそんな状況じゃなかった。


「……助けてあげましょうか?」

「へ……うっ」


 頬に手を添えられた。指先が柔らかく私の頬に沈み込む。


「多分、クレアの自己治癒魔法じゃ手遅れですよ」


 ……手遅れですよ?え、どういうこと?何が言いたいの?助けてくれるの?くれないの?どっち?


 私が驚愕の表情で、あまりにも間抜けずらを晒していたからか、ヴィンスはふふっと笑う。ニコッと効果音がしそうな笑顔は、こちらに来てずっと私に向けられていた、私の安心する表情だった。


「…………貴方様は私の事を至極純粋な人間だと思っているようですが、どう思いますか?貴方様は先程問いました、私はどんな人間かと。自由にしたらどんな人間なのかと」


 彼は笑ったままそう言う。

 私は目をぱちぱちとさせて、頬をさすられながら何も返せずにいた。


「多分、クレアの想像が及ばない程、貴方様の嫌いな最低な人間だと、私は私の事を思っています」

「……」

「だから、私は今、少しだけ、都合がいいななんて思っているんです」


 ごくっと唾液を飲む。

 ヴィンスはその黒曜石の瞳を歪めて言う。


「覚えていらっしゃいますか?私が言ったこと」

「っ、でも!でもそれは!ヴィンスが、っ、ローレン、ス、から、に、逃げ場がないっから、縋ったっ、だけの、っ言葉っでしょ!!?」


 思い出す、どこか私が不自由なら、自分を望んでくれたのにと。


 そんなはずない、自分を守るためだったはずだ。そう思って行動していたというのに、それじゃあ、依存だ。必要とされる事への悪質な依存だ。


「分かりません、真に自分がそう望んでの言葉なのか、やむを得ず恐怖から出た言葉なのか。そんなことは分かりません」


 ゆるゆると注ぎ込まれる魔力に、同じように血が抜けていく寒さ。

 怖くて涙が出た。


「…………ですから、クレア。今、一言、私を必要だと言ってください」

「それじゃあ、意味ない、じゃない!違う、の、多分そうじゃない!」

「では、私を必要としなければならないようなお体になるおつもりですか?」


 酷い、そんなのって、無い。どう転んでも、私が頑張った意味ってないじゃないか。


 これでも、気合いを入れて、頑張ったんだ。ヴィンスが笑っていられるように、でもヴィンスは想像以上に頑固で頑なで。


 確かにそんな鱗片は日常生活でもあったような気もすれば、無かったような気もする。実際、人としてどうかと思うが、私だって、なんだかんだ言って、サディアスの希望を蔑ろにするし、多分ヴィンスの気遣いも色々蔑ろにしているから人としての道理など、引き合いに出せないのだけど。


 そう、わちゃわちゃと頭の中で色々考えて、結局、私が望んだ結論じゃなかったが、もう仕方ないと思った。だってこれだって望みだ。結局ローレンスが居なくとも、ヴィンスはヴィンスだと言うことなのかもしれない。


 そして、いつも私は、彼に対してとてつもなく弱い。


 だって、そりゃそうだ。この世界で、私は彼を家族みたいに思って、いや、成り代わった事によって失った全ての繋がりの寂しさを彼で埋めていた。


「ッ……ヴィンス……」

「はい、なんでしょうか」

「…………た、たすけて」

「ええ、喜んで」


 仄暗い部分、狡い部分、打算的な部分、そう言うものを全部感じさせずに、彼はにっこり笑った。


 そして私はやっぱり安心が勝ってしまい。ぱったりと意識を失った。

 




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