頑張ったんだけどな……。10
私の問いかけに、ヴィンスは怒った表情のままふと前を向いた。思いは伝わっただろうか。
先生がスっと手を上げる。
私は魔力を存分に込めた。
「よーい……始め!!」
やや、スローに先生の声が響く。随分先にいる、コーディと目が合った。やはり私のカギを取りに来るのは彼だ。
こちらから動かずに剣を構え、両手にグッと力を入れる。コーディの私とお揃いの蒼い瞳に光が灯っている。
私のチームメイト達が相手チームと同じぐらいのスピードで向かっていくのが見えた。それ以上他に意識を向けるのをやめて集中する。
今までまったく話をする事もなかった、私の弟は、なんとも言えない無表情で迫ってきて、すぐさま、なんの躊躇いもなく、私にその大剣を振り下ろす。
ギィィンと鉄のぶつかり合う音と共に、両腕が弾け飛んだのでは無いかという程の衝撃が襲う。
「っつ!!」
剣がビュンビュンと弧を描いて飛んでいくのが見える。視界が空を捉えて、臀部に鈍い痛みが走る。
……やっぱり、一撃だけだったね。
カギを取られる事に問題はないので、一応魔法を使って自己修復に務めつつ、大剣を振り上げたコーディを見つめた。
彼の瞳はまだ、私を捉えている。彼の横髪にしている可愛らしい三つ編みが揺れて、ペロリと舌なめずりをした。
既に抵抗する術を持たない私に、コーディは口の端を吊り上げる。
その笑顔にゾッとして、尻もちを着いたまま後ずさったが、振り上げられた剣は、いつの間にか、頭をガードした、私の腕に振り下ろされる。
「ゔッ!ッ……、?!」
魔力が続く限りは魔法を使っていられるので、一応、腕はくっついているが、ダパダパと血が溢れ出す。
……痛い、痛い!っなんでカギを取らないの?!
まったく予想外の動きに、自らの腕を握って押さえる。殺すのは無しのはずだ、そもそも、殺意を持つのがよろしくないはずだ。それなのに彼に私は殺されそうだと思った。
普通にルール違反だ。実際原作でも、魔法が使えなくなったら勝敗がついたものとして扱われるし。
それにこれは模擬戦で。
再度剣が振り上げられる。
血しぶきを飛び散らせながら、私は腕を持ち上げてガードする。魔力を限界まで使って、飛んでいきそうな意識を何とか持たせる。
「あ゛っ」
ドチャッと、濡れた衣類を叩きつけたような音が体の内側から響いて、酷い耳鳴りがする。
大剣が眼前まで迫っていて、焼けるように両腕が熱い。
「ゔッ!ッっ!」
酷い汗が出てきて、私を殺さんばかりの攻撃をする彼を見据えた。私と目が合えば、コーディはずいっと顔を近づけて来て、すぐそばで私をじっと見る。
そしてギコギコと、あらんことか大剣をスライドさせた。
「いっい、いたいっ!!っいだっ」
「……」
肉の切り裂かれる感覚に足をばたつかせ、涙を撒き散らしながら、声をあげる。コーディが目の前にいるせいでほかの人の動きが見えない。
誰か、助けてと咄嗟に思う。目を瞑ってしまったら意識がなくなってしまいそうで今にも魔力が切れて、腕が切り落とされてしまいそうで、ガタガタと体が震えて歯の根が合わない。
「ッ、っい゛、やめ、やめてよ!」
「……」
コーディは相変わらず、苦しむ私を見て笑っていて、それでも途端に、ふっと無表情になる。
私の腕は今、繋がっているのだろうか。そんなことを疑問に思うぐらい、血が出ていて、身体中から液体という液体が漏れ出ていた。
必死になって見つめ返して居れば、彼はギコギコ手を動かすのをやめて、ふと逡巡する。それから一言、ぽつりとつぶやく。
「あー……殺したい」
ふと私の斜め上をコーディは見て、少し動きを止め、それから立ち上がって、剣を振り上げる。
メチッっと、生肉にフォークを突き刺したような感触が響いて、ふくらはぎに深々と剣が突き刺さる。
「あ゛あ゛っ!!」
バチバチッと電流が流れるように視界が白んで、クラっとした。
剣が引き抜かれて、コーディはトコトコと去っていく。それを見送って、ふらつきに任せてバタンと仰向きに倒れると、見慣れた顔がこちらを見下ろしていた。
ふと彼はしゃがんで、煌々と光る瞳で私を見つめた。真っ黒なのに、キラキラとしていて、嘘みたいな程、美しい。
けれど、今は見惚れてられるほど、余裕がない。まったく無い。痛い、とにかく、寒くて痛い。こちらに来てから、私ってこんな目にあってばっかりだ、体が危機を感じて心臓が耳元にあるぐらい大きな心音が聞こえる。どこを動かす気にもなれずに、死にたくない、死にたくないという思考が頭を支配する。
助けは?試合は?先生は?なんで?




