頑張ったんだけどな……。9
魔法玉と今日使う用の簡易魔法玉を取り出して、魔法を起動しようとするが、最近、固有魔法を使ってばかり居たせいで、魔力が霧散する感覚が明確になってなんだか調子が狂う。
上手く簡易魔法玉の方に魔力が入っていかない。
サディアスの魔力を取り込んで強化の練習をしてたけど、あれすごく、しっくり来てたもんな。
なんだろう、無理やり例えるならば、スマホに慣れてしまうとガラケーは使えないというか……。
スーパーのパックご飯ですんでいたのに、炊飯器で炊いたお米になれたらそればっかりなってしまうと言うか……。
妙なたとえを考えつつ、魔法玉から魔力が溢れ出して、ぎゅっと手の中に握り込むのに魔力は霧散していく。あっという間に一割減ってしまった。
「……」
……ちょっと不味くない……かな。これ。
先生や生徒たちは、大砂時計の嵌っている観戦席のセンターの部分にそれぞれ座り、ブレンダ先生とバイロン先生が打ち合わせをしている。
……まだ始まらないでくれ!
魔力を強くして叩き込むように流すが、未だに魔法が使えない。それにこんなに効率が悪かったら、四割しかない魔力はすぐに底についてしまうだろう。
一旦諦めて、魔法玉を離し仕方なく剣を抜く。盾も使える片手剣だが私は魔法があっても無くても両手でもつ。ずっしりと重たくて、地に剣先をつけてしまいそうになるが、切れ味が悪くなり刃が傷ついてしまうので我慢だ。
それぞれ、皆は私を中心に一列に並び始める。
戦闘開始のポジションは、カギを持っているリーダーが後ろに付き、それ以外が前に並ぶ形と、相手チームの相性のいい相手と戦えるように相手の編成に合わせる形、それから集団で攻撃出来るように密集型など、たくさんの種類がある。
今日の私達は個人で戦績をあげられるようにと、少しバラけた配置で横一列だ。もちろんヴィンスは、私のとなり、サディアスは私の窮地を気にしなくて良いように一番端の並びだ。
焦りを感じながら、飴玉を噛み砕く。
ヴィンスが、動いてくれるかどうかは正直まったく分からない。というか、動かない可能性の方がとても大きい。
……それでも、良い。でも、彼が囚われている、枷はもう無いのだと伝えなければ。
その後、どう立ち回るのかは全部ヴィンスの自由だ。
バイロン先生が魔法を起動してこちらに降りてくる。二階席から飛び降りる姿は非常に軽やかだ。
「ヴィンス」
私たちに合わせるように並び始めるコーディ達を見据えながら彼に呼びかけた。
「貴方ってどうして私に従うの?」
先程も聞いた事だ、答えはわかっているし知っている、でも今の彼がなんて言うのか聞きたかった。
数秒の沈黙の後、返答が返ってくる。
「……そのように、私は望まれ、それ以外無いからです……クレア」
それは数日前より、だいぶ、彼の本心に近づいた返答だった。
……そう、そういう風に生きる以外をヴィンスは分からない。ローレンスに拾われ、スパイみたいなことをしなければ、生活の保証なんて一切なくて、その行為によって追い詰められるクラリスの事を考えないようにしていた。
そしてそれは、幼い頃から、クラリスと共に成長しても変わらなくて、でもクラリスが私になって、きっと色んな事が揺らいでいる。
でも、自分の中の矛盾だとか、望みだとかそういうのに全部、蓋をしてきてしまった。
そして、それらを、受け入れたり許容する術をヴィンスは持たない。ローレンスからクラリスは逃げられた。でも、ヴィンスは逃げたいとも思わせて貰えないほど、権力という名前の力でねじ伏せられていた。
私には、ローレンスに要求を通せるだけの価値がある。しかし代償は伴う、私自身がローレンスの傀儡になることを避けられない手だったが、それでも、私は、ローレンスと約束を交わしてきた。
「ヴィンス、あのね。……貴方今、自由なんだよ。ローレンスが約束してくれた。ちゃんと魔法使いになるまで、貴方の後見人として役目を果たすし、もう何も報告も必要なくて行動の制限も一切ない」
「……そんなはずありません、あの方は……貴方様の事を監視できない私など、用済みのはずです」
「うん、監視も何も、私、ローレンスに逆らえなくなるから、そんなの要らなくなるよ。それと引き換えにヴィンスを自由に……ここに居るみんなと同じに、学園で生活して、未来を選べるようにしてもらった。ね、全部解決して一石二鳥でしょ」
私が誇らしげにそう言いつつ彼の方を振り返ると、珍しく、ヴィンスは怒っているような顔をしていて、初めて見たそんな表情に私は面食らう。
「…………なんて……事を」
眉間に皺を寄せて、絞り出すような声で言う。
私が、どんな約束をしたのか、ヴィンスが知っている情報を組み合わせると理解できたらしい。
彼は元々、クラリスに完璧に仕えるほど、教養もあって博識で、頭がいいのだ。ここに来たばかりの私と違ってちゃんと理解できるのだろう。
「何故、ですか。貴方様は私を遠ざけたでしょう?己の意思で仕えなければ意味は無いと、それは……ローレンス殿下に協力せざる負えない私を許容する事が出来ないからでは……ないのですか!」
「ん?」
「それでは、まったく意味がありませんっ、クレア!貴方様はあの方が苦手なのでしょう?どうしてそのような……」
……違うな、そうじゃない。苦手なのには確かに代わりがないが、やはり私がヴィンスに、自己決定権を持って欲しいと突き放したタイミングが悪かったのだろう。ちょうどクラリスに、真相を聞かされた後だったから。
「そうじゃないよ、ヴィンス。そもそも私ね。まだ、ローレンスの事をさ、クラリス達に言われたからって、知った気にはなれないよ。一応本当に私の後ろ盾だし。……最悪の男だけど」
「……どういう、事ですか」
「ローレンスのことは別にいいの。後で自分でどうにかするし。でも、貴方が、ヴィンスが、自分で望んだいろんなやりたいこと、進みたい道、望みを選べないその状況、それだけが許せなかった」
バイロン先生は、二階席で、大砂時計の元に立つブレンダ先生と目を合わせる。そして、準備の整っている両者を見た。私は、無理やりに魔法を使って、剣を構える。
「ヴィンス……ヴィンスってどんな人なの?」
聞きたかった事を言う。
「自由に振舞って、私の言うことを聞かなくても良くて、誰にどんな事を言ってもいいヴィンスって、どんな人?」
問いかけてみる。
この作戦は、私からの望みでもある、きっと、私が窮地になったら、なにかを思って、それを自覚してくれる、それが自立の初めの一歩になる事を望んでいる。
けれど別に、私に何も思わなくてもいい、魔法使いを目指さなくてもいい、それで、貴方って言う人が自分を見つけて動けるなら。たとえ、私を選んでくれなくても構わない。




