頑張ったんだけどな……。5
先日の授業で少し騒ぎにもなっていましたから、何か特異なものであるかもしれないとは思っていましたが、なぜそれを今?
「彼女の魔法は強化だそうだ。他人の魔力を取り込んでその者の力を増幅させる。その場合に、クレアも魔法玉の欠損が埋まり、一時的に重複使用無しで魔法の行使が可能になる」
「なる、ほど」
……クレアの事ですから、何か他人に関与するものの可能性が高いと思っていましたが、想像をはるかに超えています。
サディアス様が強化というのなら、きっとそれは、とても柔軟性が高いものなんでしょう。他人の魔力を取り込むということは、それだけ相手と深く調和します。クレアは魔力を熱のように捉えていましたが、多くの場合、それは生命力の源のような存在ともされています。
それを取り込むという事で使用相手によって魔法の形が変わるということにも頷けます。
「使用には条件がある。クレアが望んで魔力を取り込むか、誰かが注ぎ込むかの二択だ」
「……変更するべきだとは思いませんか?それではクレアは、個人戦でどれほど努力しようとも、意味をなしません。それに、他人に依存する戦いになってしまいます」
そう自分で言って、クレアはだから私にその情報を伝えたくなかったのかもしれないと思う。彼女が依存しなければならない存在であればいい、そして、私を必要としてくれと望んだのは他でもない私でしたから。
そして、この状況でも、彼女はやはり私にそういう状態にあるのだと言わない。クレアの望むことはいつも一貫していてとてもわかりやすい。
「……そうですね。私も初めて聞かされた時そう思いました。唯一彼女が一般の生徒に追いつける可能性があるのが固有魔法でしたから」
シンシア様がそう答えます。この方も同じように、とても意志の強い方で、一人で戦うということにとても固執しています。
「でも、クレアは嬉しいと言ったんです。自分が劣ったままでも、誰かを補える人間になれるのが、とても嬉しいと」
優しさなのか、偽善なのか、自己満足なのか私には判断がつきませんが、続いてチェルシー様が口を開きます。
「それから言ったんです!クレアはっ、ヴィンスに自ら選んで、依存しない事を選べるから、ちょうどいいのだと言いました!」
「私が……ですか」
なんの脈絡もなく私の名前が出てきて少し混乱します。チェルシー様は少し怒っているようでした。
「そうです!クレアは、貴方が自由であるべきだって何度も何度も言っていましたっ、そして隣にいて欲しいと、ヴィンスが大切なのだと」
「チェルシー、少し落ち着いて話をしてくれ、ヴィンスが驚いている」
「わかっています!……ヴィンス、それでも、クレアは貴方を望む事はしません。クレアが言えば強要になってしまうそうです。貴方は彼女をどう思いますかっ?」
チェルシー様は私に言い募ります。それはとても苦しそうで、そして、私もクレアの言葉だと思うと、胸の中心がとても痛くて、思わず眉をしかめました。
「よく、よくよくっ考えてください!そして、クレアのっそばにいることを選んではくださいませんか?」
「チェルシー、そのぐらいにしよう。誰かが、ヴィンスを強要してしまえば、クレアの行動は意味がなくなってしまう……わかっているだろう?」
「ええ!っええ、わかっていますっ、でも、でもなんです、サディアス。私はこんな深い慈しみと言う言葉では足りない、クレアの行動がどうか報われて欲しいんです」
チェルシー様の言葉に、吐く息が震えました。
ヴィンスと私に笑いかけるクレアの笑顔が、脳裏に浮かびます。
……クレア、貴方様は私をいつも笑顔だと言っていました。本当は私、それほど笑顔は得意ではないんです。
貴方様がいつも、笑ってくれるから返していただけなんです。
いつもいつも、幸せそうに笑う貴方がもっと笑顔でいればいいと望んだだけなんです。けれどクレアは、私の事を考えて、あえて突き放した。そして今、望まれている。
私の固定観念を壊して、彼女のそばにいたいと示すことを。
ずっと前から望んでいる。あと一歩、あと少し、示すだけのはずです。その一歩はいつ、どう、踏み出せばいいのか私の中にその答えはありませんでした。




