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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『夏のホラー2023』投稿作品

『後部座席に荷物があります』

作者: 桜橋あかね

最近の車は、多機能で便利だ。

自動運転やら、電気自動車、挙げ句の果てには水素だろ?


それに、内部だって細かいところがある。

スマホと連携すれば、音楽が聴けたり電話が出来たり。

色々な案内だって、してくれる。


そんなこんな、便利な時代になったのだが―――


▪▪▪


俺の名前は、轟木剛史(とどろきたけし)

地方のゲームセンターに働いている、フリーター。


今日の夜勤を終えて、帰るところだ。


「お疲れ様でしたー」


同期や先輩の社員に挨拶をして、車に乗った。


(あーあ、明日も夜勤だし……早く帰って、寝よっかなぁ)

そう思いつつ、車のエンジンをかける。


「と、なれば……」


普段なら、少々遠回りして街灯がある市道を走る。

今日は急いで帰りたいから、夜は滅多に通らない農道を走ろう。


「さて、帰るか」


こうして、俺は帰路へと車を走らせた。


▪▪▪


市道から外れ、農道へ逸れた。


街灯は、市道と比べれば明らかに本数が少ない。

その為か、異世界に迷い込んだ……とは言い過ぎだが、暗さがおっかない。


(……うう、やっぱりおっかねぇなぁ。って、確かこの先に……)


この先に、緩いカーブがある。

……のだが、随分前に事故があってお地蔵さんがある。


その時に、何故か『お地蔵さんに手を合わせてはいけない』事を思い出した。

あれは『死者を供養するために置かれた』事だからと―――


――その、カーブに差し掛かった。

右手側に、お地蔵さんが見える。



その地蔵と、目線が合った。



と、思った瞬間。

お地蔵さんに向かって、ハンドルが引っ張られる感じがした。


いや、感じではない。実際に引き寄せられる。


(これは事故る!!)

そう一瞬で思い、ハンドルを逆方向へ回しながらカーブを曲がりきった。












「はっ……はっ……」

さっきの出来事で、冷や汗をかいている。


(こ、この先に)


確かチェーン装着場があったはずだ。

少し気持ちを落ち着かせてから、帰りたい。


数分で、装着場へ着いた。

即座に入り、車を出入口付近に止める。


もう少しで、単独事故になるところだった。

次からは、と言うか……やはり市道の方が良いと思った。


(……?)


ふと、スピードメーターの横にある小さな画面に目がいく。

そこには、時刻や速度制限など、様々な項目を知らせてくれるものなのだが……


『後部座席に荷物があります』と、書かれている。

確か、ディーラーの人に聞いた話だと、荷物を乗せ過ぎると警告が出る仕組みらしい。


……だが、その話を聞いた俺は()()()()()()()()()()()()()、荷物は基本的に乗せないはずだった。


(おい、これってまさか)


振り向きたくないが、見るしかない。










ミラーから後部座席を見ると、そこには長い髪の女性が座っていた。










(!!!)


その一瞬で物事を悟り、俺はエンジンをかけて装着場を出た。

後ろに乗っている()()は、明らかにこの世のモノではない。


(とにかく、明るくて人が居る、ところ)


確か、この先にコンビニが一軒あった。

そこで夜を明かさないと、()()を連れて帰る事になる。


……そして、何キロか走ったところでコンビニを見つけた。

そこで俺は、日が昇るまで雑誌を漁る事になった。


▪▪▪


日を(また)いだ、朝。

俺はようやく、家へ帰れた。


(……もう、限界……)

着替えもせず、布団に潜り込んで寝てしまった。



それから、何時間寝たのだろう。

携帯の着信音で、目が覚めた。


「……ん、んんー?」


寝ぼけながら携帯をみると、時刻は出勤の時間が迫り、同期の一人で早番をしている三好(みよし)からの電話が何度か来ていた。


「うわ、やべぇ」

そう呟きつつ、先に事務室の電話にかける。


『……はい、もしもし』

この声は、社員の新田(にいだ)さんだ。


「お疲れ様です、轟木です」


『ああ、轟木君。まだ出勤してないけど、何かあったの?』


ふと、昨晩起きたことを思い出した。

だが……言ったとしても、信じて貰えないだろう。


こうなったら、だ。


「すいません、突然体調が悪くなって……電話しようと思っても、出来なかったんです」


『……あら、そうなの。最近ほぼ遅番メインで入って貰っているし、今日ぐらいは私から話を通して休みにして貰うわ』


「……あ、ありがとうございます」


お大事に、と言って彼女は電話を切った。

話が通せる、新田さんで良かった。


「次、は」


三好の携帯に電話をかける。

この時間なら、仕事が終わっているはずだ。


『たけちゃん、どうしたんだよ。時間にぴったり来るお前が、来ないなんて』

開口一番、三好はそう言った。


三好は、オカルト系の話に通じていると前に話してくれた。

滅多な事でも口を割らないヤツだと信頼しているから、昨晩の話をしてみよう。


『……おい、轟木。それ本当かよ』

話を終えたあと、急に静かな口調で返した。


「ああ、本当さ。ハンドルを引っ張られたり、幽霊が居たりよ。怖かったさ……ははは」


『笑い話にしちゃいけねぇぜ、轟木。あそこ、ここら辺じゃ危ない場所さ』


三好によればだが――

あのカーブは事故の多発場所であり、あのお地蔵も事故供養として置かれたものなのだが、逆に『スポット化 (幽霊が出やすい場所) 』になっていて深夜帯は控えた方がいいとの事だ。


『まあ、たけちゃんが事故起こさなかっただけ、神様が助けてくれたんだろうな』

そう、三好は付け加えた。



それから、俺はしばらくの間、地蔵の近くを通らないようにしていた。


『あの出来事』を再び、起こさない為にも―――

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは怖いですね…!そのものを見る怖さもありますが、機械が文字で表す怖さ、それを見て後部座席を見る怖さも、相当なものですね。 途中の空白の使い方も、効果的で印象的です。読ませていただき、…
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