06
ミスティアの場合
出入りの商人が訪れた時、人相の悪い従者が背後にいました。
商人なら色んな伝手があるのではないかと思い、つい口にしてしまいました。
「ちょっと頼みたいことがあるのだけど、何でも聞いてくれる人っているかしら?」
商人は何度か瞬きをして首を傾げた。
「なんでもとは何でしょう?」
この商人は私の意を汲めないみたいだから、駄目だわと思った。
「いえ、いいのよ。気になさらないで」
「かしこまりました」
後の人相の悪い従者は私を見てにっこり笑った気がしました。
商人がトイレを貸してくださいと席を立ち、従者だけが残される。
従者は何も言わない。
私から声を掛けねばならないの?
「ねぇ、あなたは頼み事を聞いてくれる人に伝はないかしら?」
「ありませんと言えば嘘になりますが・・・」
アリアルの父の場合
「きぃーーーっーー!!お父様どういうことですの?」
「何がかな?」
また今日もアリアルは叫んでいる。
我が子ながらなんとかならないものかと毎日思う。
キャナル嬢からお茶会のお断りの手紙を、見ろと渡される。
「殿下からのお断りか!」
「キャナルにしてやられました。これで学園以外で会うことが難しくなりました」
私はアリアルが殿下の婚約者候補だなんて一度も言ったことがないのに、アリアルはなぜか思い込んでいる。
この子は狂っているのだろうか?
殿下との顔合わせの時も遠ざけられていたように思う。
エイデン殿下が生まれた時、王は、今まで上位のものばかりと結婚していたために、血が濃くなりすぎているからと、結婚相手は下位の貴族からでも選ばれると発表した。
だからなのか?いつの間にか勝手にアリアルは婚約者になれると思いこんでしまっていた。
「この返事だと来年の6月か7月には結婚するということなのではないですか?!」
「そうだねー。そう感じるね。いい加減殿下のことは諦めたらどうだい?」
「そんな事できませわ!たかが子爵家のキャナルなんかに負ける訳にはいきませんもの!!」
いや、既に負けてるんだが・・・。
言わぬが花か。
言った方がいいのか?
「アリアル、殿下はキャナル嬢が好きなんだよ。幸せを喜んであげたらどうかな?」
「忌々しい、なぜこの短期間でこんなに話がトントンと進んでいくのですか?」
私の言葉は聞かなかったことにされてしまったようだ。
この子を本当にどうすればいいのだろう?
殿下の婚姻については確かにかなりのスピードで話が進んでいる気がするが、我々には関係のない話だと私は思う。
「上位になればなるほど婚約にしても、結婚準備にしても邪魔が入るものでしょう?」
そうなのだろうか?
殿下とキャナル嬢の結婚は貴族にも平民にも受け入れられていると感じるのだが・・・。
妻が廊下の先に姿を見せたが、アリアルが叫んでいるのを聞いて逃げてしまった。
「来年と思っていても再来年になっているなんてことはよくあること・・・ですわよね?」
「お父様、あらゆる場所にあらゆる圧力をかけてくださいませ!!」
そんな圧力を掛ける力は私にはない。
「聞いていますの?」
「ああ、聞いているよ。でもね、所詮伯爵家だよ。私の掛ける圧力なんてそよ風が吹くより軽いと思うよ」
「それでも何もしないよりましではありませんか!お父様はもっと危機感を持ってくださいませ」
私はアリアルのおかげでいつも危機感を持っているし、敗者の気分をも味あわされているよ。
この子はどうしてこんな風になってしまったのか?
小さい頃はいい子だった・・・ことはなかったな。
「わたくしが殿下の妻になりますのよっ!!」
「もう、無理なんじゃないかな?」
「来週からは学園も始まります。ここからが勝負ですわ」