02
エイデンの場合
エイデンは浮かれに浮かれまくっていた。
去年の夏頃には内定していたが、一番大事な本人の同意が得られず先延ばしになっていた。
そのキャナルが婚約者として発表されたから。
浮かれて何が悪い?!
婚約者になって欲しいと3年くらい前から本格的にお願いしていたけど色好い返事は貰えなかった。
軽い感じでは、出会った幼少の頃から「婚約して」とお願いしていたけどそれも全敗。
「殿下が嫌なわけではないのです。私の家は子爵家です。それに私は王宮には住めません!王妃様など恐れ多いです」
と言って気配を消そうとする。
たしかに私と結婚すると、必ず王妃という役職が付いてくる。
子爵家にとっては厳しいのかもしれない。とは思う。
が、でも好きなんだもの。どうしょうもない。
キャナルのためなら王位継承権は破棄してみるのもいいかもしれないと計画を練った。
父王に相談しに行く。
「もし喧嘩した時、お前のために王位継承権を辞退したとキャナルに言うことはないかい?」
まず、ないな。とは思ったが、可能性は0ではないとも思った。即答は控えた。
「答えに詰まるなら止めておきなさい」と父王に諭される。
「それに、エイデンに王位を譲ると決まっていないしな」と言われた。
なるほど、今がチャンスだと思った。
「そうですよね。私が王になるとは決まっていないんですよね。それを聞いて安心しました」
「安心したのかい?」
父の顔にちょっと焦りが見える。が、まっ、いい。
「はい。王にならない選択があると実感しました」
「辞退すると言っていたと思ったんだが?」
「そうなんですが、それはとてもいけないことだと思っていました」
「いけないこと・・・か」
「はい。辞退することが軽くなりました。もう、聞かれても答えに詰まらないと思います」
「詰まらないのかい?」
「はい。王位継承権を辞退します」
「そんなにキャナルが好きなのかな?」
「はい」
大好きだとまた思った。
そしてキャナルにもう一度告白して婚約に至った。
キャナルの場合
かなり前から殿下に婚約者になって欲しいと告白されていました。
けれど私ではとても王妃様になどなれません。
たかが子爵家ですし、ましてや王宮になど住めません!!
公爵にだって嫁ぐのは二の足を踏んでしまいます。
底辺でウロウロしているのが一番楽な生き方だと思っています。
殿下のことはその、好き、な、方?だと、思いますよ。
告白されてとても嬉しかったし、お受けしたいとも思いましたから。
でも、それとこれとは違うのです。
父が呼んでいると言われ、執務室に向かいました。
「お父様御用ですか?」
「殿下が明日、来られる」
「またですか?」
「キャナルに話したいことがあるそうだ。そのために明日来ると仰ている」
「婚姻の申込みでしょうか?」
父は深いため息をついて難しい顔をします。
殿下が私の前に跪いているんですけど。
本気ですか?!
慌てて周りを見ると、隣の父も執事のヨーゼフも驚いた顔をしている。
母だけが複雑な顔をしています。
「キャナル嬢、私と結婚して欲しい。王位継承権を辞退してきた」
ここにいる全員が息を呑みました。
「そんな事をしてはなりません」
父が立ち上がり殿下に詰め寄ります。
そんな父を物ともせずに殿下は私に向けて話し続ける。
「私は王位継承を自分のものだと勘違いしていたんだ」
「勘違い?」
殿下は深く頷かかれます。
「絶対に私が継がなくてはいけないと思っていたのだが、王からしたら王位を譲ってもいいと思う中の一人に過ぎなかったんだ」
なるほどと思った。
「それならキャナルのためなら辞退してもいいと思ったんだよ」
私は慌てました。まさか王位継承権を辞退するなんて思いませんでした。
「殿下、そんなことしてはなりません」
「この話は内密だよ。辞退は認証されたんだ」
「そんな!」
立っていられずソファーに座り込んでしまいました。
お受けするしか道が残されていませんでした。